手術室でも医局でもない、
外科系医師に開かれたオンラインでの研鑽場所

【#02 川口善治先生】後縦靱帯骨化症を何とかせんといかん

本編に登場する論文

Clinical impact of ossification of the posterior longitudinal ligament progression after cervical laminoplasty
Yoshiharu Kawaguchi, Masato Nakano, Taketoshi Yasuda, Shoji Seki, Kayo Suzuki, Yasuhito Yahara, Hiroto Makino, Kenji Kobayashi, Masahiko Kanamori, Tomoatsu Kimura
Clin Spine Surg. 2019 Apr;32(3):E133-E139. doi: 10.1097/BSD.0000000000000747.

Increase of the Serum FGF-23 in Ossification of the Posterior Longitudinal Ligament
Yoshiharu Kawaguchi, Isao Kitajima, Masato Nakano, Taketoshi Yasuda, Shoji Seki, Kayo Suzuki, Yasuhito Yahara, Hiroto Makino, Yasuhiro Ujihara, Tomohiro Ueno, Tomoatsu Kimura
Global Spine J. 2019 Aug;9(5):492-498. doi: 10.1177/2192568218801015. Epub 2018 Sep 27.

── 靱帯骨化症との出会いについて教えてください。

自分が1番最初に受け持ちした入院患者さんが後縦靱帯骨化症の方だったんですよ。
対麻痺状態で手術を受けていて、自分が入局した時にはロフストランド杖でフラフラ歩きながらリハビリしていました。
けれども、結局は実用的にはならず、車椅子になって職業の警察官を辞めなくてはいけなくなった。
「何とかしてくれよ」と言われて、色んな検査にも協力していただきましたけど、良くはならず、メチコバールやプロレナールを半年に1度処方していました。
「先生がいるから外来に来るわ」という感じで言われて、ずっと外来で診ていたんですけど、ある時に癌になり富山大学に入院されていました。
病院にお見舞いに行ったら、手を握って「頑張って、頑張って」と言われて、、、
そういうのもあって、靭帯骨化症を何とかせんといかんな、と思っていました。

靭帯骨化症の患者さんは日本で非常に多いけれども、内科の先生みたいに疾患のパソロジーを同定するまで整形外科医でやっている人は少ない。
自分としては、そこに研究するべき意義があるのではないかな?と思って、、、とにかく患者さんを診て、データをたくさん集めようとしていました。
今でも後縦靱帯骨化症の患者さんが来ると、血液データや全脊椎のCTを撮像させてもらい、1年に1回フォローするようにしています。
2年以上経ったらCT撮像をフォローしたり、血液データでバイオマーカーを見たり。
班会議を通じて理化学研究所の池川志郎先生が興味をもってくれて、症例を日本全体で集めて、GWAS研究をしてNature geneticsに中島正宏先生がpublishしたこともありますよ。
やっぱり成果がでると嬉しいですよね。

── 素晴らしいですね。
普通の整形外科医は外来をやっていても、一般的に採血はオーダーしないです。

そうですよね、データを集めようとすると時間も労力もかかりますよ。
でも、私は後縦靱帯骨化症だけはしっかり集めようということで、現在私の持っている患者リストとしては300名ぐらいはあると思います。

── 先生の後縦靱帯骨化症に関する論文をみると、1981年の患者さんから集められているようなので凄いリストだな、と感じていました。
2019年のClin Spine Surg. に頚椎拡大術後の骨化伸展の論文がありますが、こういう患者さんたちで困った臨床経験があるのですか?

後縦靱帯骨化症の画像を集めていると、術後に骨化伸展しそれが原因で症状が増悪する人も数人でてくるんですよ。
多くの人は大丈夫ですが、稀だけど悪い経過をたどる患者さんの報告も非常に大事だなと思っていて、まだ過去に報告されてなかったことなのでまとめました。
手術後もしっかり経過観察しないといけないし、手術やったらおしまいじゃない、というメッセージで論文にしましたね。

── そうですね、外来フォローしている患者さんが調子悪い時でも「除圧してるから大丈夫でしょ」と見過ごしてしまって気づかないことがありそうです。

整形外科の外来をやっていてもテーマを考えながら診るってことはあまりないんじゃないかと思うんですよ。
私の場合、後縦靱帯骨化症は絶対逃さんぞ!っていうような気持ちで外来をやっていたので、色んな発想が湧いてくるのです。
幸い患者さんも集まってきてくださったし、外国には後縦靱帯骨化症患者さんが少ないのであまり競合もせず、英語でこういう報告をするとウケが良い感じがしますね。

── 先程、採血データを集めていたとおっしゃられていましたが、次にご紹介いただく論文はGlobal spine Jの論文で、FGF-23や高感度CRPというバイオマーカーに関する内容です。

科学研究費を申請するタイミングで、後縦靱帯骨化症患者さんの血液データもDNAもあって、何の研究がいいかなと悩んでいました。
DNAに関しては、単施設でやってもしょうがないし、理化学研究所の池川志郎先生には絶対かなわないだろうから難しいテーマだと思いました。
その当時、富山大学の臨床検査医学の教授が、骨代謝も非常に詳しい北島勲先生という方でした。
相談しに行ったら、高感度CRPが心筋梗塞のリスク因子として言われるようになったと教えてくれたのです。
CRPは後縦靱帯骨化症と全然関係ないと言われてたけれども、高感度でみたらどうなるのかなと思って研究することにしたのです。
高感度CRPの結果を集めたら後縦靱帯骨化症の患者さんはコントロールに比べて高値を取っており、有意差があるという結果がでたので、骨化と炎症は何かしら関わってると確信しています。
その研究の中で、たまたま見つけたのですが、骨化症患者さんは統計学的有意にリンの値が低かった。
べらぼうに低いわけではなく正常下限くらいなんですけど、何らかの関わりがありそうだけど、よく分からなかった。
そこで再び北島先生に相談しに行ったら、FGF-23が測れるようになったから測ってみたら、と。
私も最初は何のことかよく分からなかったのですけれど、、、測定してみるとFGF-23が後縦靱帯骨化症患者さんでとても高かったのです。

── 疾患でいうと、FGF-23関連の低リン血症性くる病っていうのがあるんですね。

リンやFGF-23に関する東大内科の伊東伸朗先生という先生の講義を聞いたりもして勉強してみると、低リン血症性くる病の患者さんに後縦靱帯骨化症があるとは、昔から言われていたのですね。
私も、低リン血症性くる病の高齢男性が骨折して来て、画像をみると骨が全部癒合していた経験があります。
本研究でFGF-23と後縦靱帯骨化症の関連性が示唆されたのです。

── 面白いですね。
整形外科医だけで研究していたら「骨化症でリンが少し低いね」で終わっちゃっていた話かもしれないですね。

そう、色んなアイデアってどこかに必ず存在しているけど、上手く情報を得ていかないと気づかず、研究がなかなか発展しないですよね。
整形外科医は手術で非常に忙しい。
メカニカルストレスに結びつけるのは得意だけれども、それ以上に考えることはないように思うんですよね。
例えば、今は新型コロナで大変だけれども、骨軟骨や筋肉における疾患でウイルスとの関連性はほとんど言われていない。
でも、調べられてないだけかもしれない。
何かあるかもしんないけど、ウイルス性疾患を運動器疾患に結び付けて考える人が少ないから、何も言えてないだけかもしれないですよね。
そうやって色々考えるのって楽しいじゃないですか?

── 目の前の患者さんとか手術とかで頭がいっぱいになっちゃって、それで満足感もあるし疲れて終わってしまいます、、、。

そうそう、私もほとんどそうですよ。
たまに暇な時間にちょっと考えて、もしかしたらこういうことってあるんじゃないかなと思ってやっていると、アタリが待っている時があるっていう感じですかね。

── 川口先生はAO spineでもAsia Pacific Boardメンバーとしてご活躍されています。

AO spine Japanの創設メンバーの先生方が年に1回、AO spineのホストをやっていたのですね。
2006年の時に私にお声がけをいただきまして、そこからAO spineの活動に参加するようになりました。
ちょうどその時期に、椎間板遺伝子の研究で、香港大学のKenneth MC Cheung先生と繋がっていたのです。
彼が日本で招待講演された時に一緒にご飯を食べる機会があって、AO spineにはエデュケーション組織があるよ、と教えてくれたんです。
「なんか面白そうだね、参加の仕方を教えて」とか答えているうちに、12月にダボスでの合宿に参加することになったのです。
3日間ダボスに泊まり込んで、朝からずっとインタラクション形式の勉強会をしている。
昔は、昼休みがあってスキーもできました。
そこから、AO spine Japanのファカルティに入れていただき、リサーチチェアをやらせていただくことになりました。
チェアになると、Japanの上の組織であるAsia Pacificのボードで集まりがあるんですよ。
そうこうするうちに、Asia Pacificのリサーチチェアを決める時に「Yoshi、どうだ?」って言われて、「あ、じゃあなろうかい」って。
そこからAsia Pacificにも知り合いが増えていき、今度はAsia Pacificのエデュケーションのポストを決める選挙があるって言われたんで、手を挙げて、、、そこで選ばれてエデュケーションチェアにしていただいて。。。
その間にダボスの合宿にも何回か参加しています。
3年連続でファカルティをやって、翌年はセッションのチェアマンをやることになって、、、
チェアマンって合宿のプログラムを全部決めないといけないので大変な仕事なんです。
3日間のプログラムを組んで、発表者も決めて、ディスカッションをオーガナイズして、、、結構疲れるんだ。
終わった時にはなんか力が抜けるようだったけれど、やりきったなっていう感じで心地よい疲れで、凄いやりがいを感じました。
翌年はエデュケーショナルアドバイザリーで参加させてもらったりして、そういう風な感じでどんどん友達も増えるので、AO spineの活動にのめり込んでいった感じです。

僕がエデュケーショナルアドバイザリになった時にチェアマンになったインドの先生が
今度インド国内の学会会長になるので「お前来てくれよ」って言われて参加したり、
メンターメンティの関係になったネパールの先生はこの症例はどうすればいいんだ?とかメールで相談してくれたり学会に呼んでくれたり、、、友達も増えて色んな国に行く機会も増えていくのは凄い楽しい。
そうやっていると、モチベーションも強くなって、また頑張ろうと思います。

── グローバルに友好関係を築いていく秘訣って何でしょうか?

できるだけ日本人とつるまないようにしていたのは1つの秘訣ですかね?
あと、どうせ考えてることは皆同じだから、そんな難しいこと言ったってしょうがない。
ワインとか話題にちょうど良いですよ。
ワインのウンチクをたれながら、そのうちに酔っ払っていくし。
ワインがコミュニケーションツールだと感じたのは、学会のトラベリングフェローでアメリカに行った時です。
昼は病院見学してプレゼンテーションしたりして、夜は皆でステーキ食べてワインを飲みに行くんですよ。
もう、ほとんど毎日。
人生を語るわけじゃないから、ワインのような物があると英語でのコミュニケーションも比較的簡単になります。
一方で、概念的なことを英語で喋られると、本当に理解が難しい。
AO spineでも、教育理念とか方針とか、本当に概念的な話題には難しい単語出てくるし、
それが自分にしっくり来ない。
何となく議論が上滑りしてしまう感覚がありますね。

── AO spineでは選挙もあったと伺いました。グローバルな環境で、ご自身が選ばれていく秘訣はあるのでしょうか?

色んなツールで友達を増やすのは大事だと思いますよ。
まず、メールは必ず返す。
時々忘れちゃいそうになることもあるんですけど、何か一言でもいいから必ず返事をする。
一回不義理をしちゃうと今度いつ来るか分からない。
あとは、相手が大御所でも関係なく物怖じしない。
そういう人ってわりと学会会場でポツンとしていて寂しそうじゃないですか。
そこで逆にお声がけをするとかえって嬉しそにされる感じがありますよ。
話しかけてくれるのを待つのは駄目で、自分から話しかけていった方が良い。
その時に小さな話題でもいいからお話ししたい内容を持っていくことは意識した方が良いかもしれないですね。
日本人って、話題がないから英語のハードルが高くなってしまい結局喋れない、というような感じで何かすごく損してますよ。

#03に続く

こちらの記事は2022年4月にQuotomyで掲載したものの転載です。