手術室でも医局でもない、
外科系医師に開かれたオンラインでの研鑽場所

【#03 讃井將満先生】集中治療医の力を共有

本編に登場する論文

Continuous Regional Arterial Infusion of Protease Inhibitors Has No Efficacy in the Treatment of Severe Acute Pancreatitis: A Retrospective Multicenter Cohort Study
Masayasu Horibe, Mitsuhito Sasaki, Masamitsu Sanui, Daisuke Sugiyama, Eisuke Iwasaki, Yoshiyuki Yamagishi, Hirotaka Sawano, Takashi Goto, Tsukasa Ikeura, Tsuyoshi Hamada, Takuya Oda, Hideto Yasuda, Wataru Shinomiya, Dai Miyazaki, Kaoru Hirose, Katsuya Kitamura, Nobutaka Chiba, Tetsu Ozaki, Takahiro Yamashita, Toshitaka Koinuma, Taku Oshima, Tomonori Yamamoto, Morihisa Hirota, Takashi Moriya, Kunihiro Shirai, Toshihiko Mayumi, Takanori Kanai
Pancreas. 2017 Apr;46(4):510-517.

Validity of an under-mattress sensor for objective sleep measurement in critically ill patients: a prospective observational study
Kanae Nagatomo, Tomoyuki Masuyama, Yusuke Iizuka, Jun Makino, Junji Shiotsuka, Masamitsu Sanui
J Intensive Care. 2020 Feb 11:8:16. doi: 10.1186/s40560-020-0433-x. eCollection 2020.

The clinical practice guideline for the management of ARDS in Japan
Satoru Hashimoto, Masamitsu Sanui, Moritoki Egi, Shinichiro Ohshimo, Junji Shiotsuka, Ryutaro Seo, Ryoma Tanaka, Yu Tanaka, Yasuhiro Norisue, Yoshiro Hayashi, Eishu Nango; ARDS clinical practice guideline committee from the Japanese Society of Respiratory Care Medicine and the Japanese Society of Intensive Care Medicine
J Intensive Care. 2017 Jul 25:5:50. doi: 10.1186/s40560-017-0222-3. eCollection 2017.

── 今回ご紹介いただく研究は急性膵炎の治療に関する論文です。

そうです。
JSEPTICでの多施設研究の下地をつくった研究で、思い出深いので選びました。
急性膵炎のプロテアーゼ阻害薬持続局所動注に関する後向き観察研究ですね。
プロテアーゼ阻害薬に関しては当時保険収載されてはいたのですが、非常に小さい規模のRCTで検証されていたのみで、その妥当性は明らかではありませんでした。
実際の臨床で使っている医師も、信じている人は使うけど、信じていない人はやらない、というような施設によって是非が別れているといった状態だったのです。

── 白黒ついていなかったのですね。

カテーテルが動かないように鎮静を深くしなければならないという侵襲度も高く、コストもかかる治療でしたから、改めてデータを出す必要があると思いました。
その効果について白黒つけようということになりました。
44施設から後向きにデータをとって検証したところ、死亡率などの主要なアウトカムに有意な差はありませんでした。

── 他には睡眠に関する研究をされていますが、これはどういった研究なのでしょうか?

かつて“ICUシンドローム”と言われていたように、ICUでは多くの患者さんがせん妄になります。
せん妄患者は日内変動リズムが崩れることで昼夜逆転状態をおこし、日中は傾眠傾向になる一方で、夜間に興奮状態になってしまったり、幻視を生じたりします。
実は、重症度の高い急性期患者さんは、脳波上、深い睡眠やレム睡眠が無くってしまう、まとまった睡眠時間が取れなくなる、昼夜逆転が起こるという特徴があるんですね。
今のところ、重症患者におけるせん妄の発症と、このような睡眠障害は関係があると考えられているんです。
また、せん妄の発症期間や重症度はICU患者の予後に影響することが知られており、睡眠の改善を図ることで究極的に長期予後改善に繋がるのでは、という期待があって研究を始めました。

── 興味深いです。

その第1段階として、睡眠を簡便にモニタリングする方法を検討したのが本論文です。
一般的に睡眠分析にはポリソムノグラフィーが用いられますが、センサー類がたくさん付いている状態は患者にとって非常に不快なものですし、解析も大変です。
例えば、心電図パッチなどの非侵襲的なセンサー類であっても、患者が剥がしてしまうことがありますよね。
そのため、できるだけ自然なかたちでモニターするため「眠りSCAN(パラマウントベッド社)」という市販の製品を使いました。
この製品は高齢者の見守りのためのもので、ベッドのマットレスの下に設置すると、被験者の呼吸・心拍数・体動を検知して睡眠・覚醒を判別してくれるものです。
健常者では良いデータが取れるとわかっていたので、臨床現場のデータはなかったのです。

── なるほど。
モニターとか点滴とか、患者さんが触ってしまいますよね。

そうですね。
何も身体に付いてないけど、しっかり測定できるものがベストです。
本研究では、「眠りSCAN」による睡眠分析をポリソムノグラフィーによる分析と比較しました。
結果としては、単体では実臨床で使用できるほどの精度は出せなかったのですが、今後も患者の睡眠を妨げないモニタリング方法について研究を続けていきます。

── ARDS診療ガイドライン2016にも携わっていらっしゃいますね。

JSEPTICで多施設研究をやっていたからこそ、 京都府立医科大学集中治療部の橋本悟先生からお声掛け頂いて参加させてもらいました。
ガイドライン作成にあたり、今ではかなり一般的になってきたGRADEシステムという作成方法を国内ガイドラインでは先駆けて用いました。
GRADEでは、まず臨床的疑問を作成し、システマティックレビューを行って、パネル会議で推奨文を決定するというシステム化されたプロセスを経てガイドラインを作成します。
それまでのガイドライン作成法だと、科学的な方法でシステマティックレビューを行っていなかったり、声の大きいエキスパートの意見が反映されやすかったりしました。
改訂版であるARDS診療ガイドライン2021のパネル会議も終えており、公開まであと少しというところです。

※編集部より:ARDS診療ガイドラインに関しては、リーダーの履歴書 橋本悟先生編第2話も御覧ください!

── Tele-ICU導入の記事も拝見しました。いつ頃からこのプロジェクトの構想があったのですか?

私が本格的に関与し始めたのは2013年からですね。
Tele-ICUについては、いろんな論文で見たり、アメリカで学会があった時には実際に見学させてもらったりしていました。
2005年に米国での臨床研修から帰国して日本の集中治療に尽力してきましたが、自分個人の力では限界があるようになってきました。
単施設でやっている限りはその病院の患者さんのためにしかならない。
そのことが不本意だなと感じるようになってきたのです。
集中治療に関わる医師を増やしたり、集中治療室を整備したり、主に教育の面で頑張ってきました。
ただ、どの診療科もマンパワーが足りないと言っている中で、集中治療を専門とする医師の数を増やすのも限界があります。
それならば地域をネットワークで結んで、集中治療医の力を共有する方が理にかなっているのではないかと考え、アメリカで見たようなTele-ICUを日本でも立ち上げようと構想していました。

2013年に、東京慈恵医科大学から教授として自治医科大学附属さいたま医療センターに戻ってくるタイミングで、永井良三学長がこういうのがあるから応募してみたらどうかと教えてくれたのが、総務省による戦略的情報通信研究開発推進事業というものでした。
嬉しいことに採用して頂き、研究費を貰ってプロトタイプとして始まりました。

── Tele-ICUプロジェクトを進める上で苦労したことは何ですか?

主に2つの壁が立ちはだかりました。
まず1つは、セキュリティ面に関する問題です。
患者の個人情報などの医療情報を外部に出すということに対して、病院の医療情報部から厳しく問われました。
技術的な面は比較的容易にクリアできたのですが、医療情報の取扱に関する先例のないプロジェクトということがハードルが高かったです。
大学内外で多くの方を説得をする必要がありましたが、研究費を取っていたことは納得してもらうのにも役立ちましたね。
2つ目はTele-ICUのためネットワーク構築に関して、でした。
他にTele-ICUプロジェクトを進めている昭和大学・横浜市立大学・千葉大学では、医局から関連病院のICUに医局員を派遣しているため、協力関係を作ることは難しくないでしょう。
もともと、顔の見れる関係があるからです。
一方、自治医科大学附属さいたま医療センターでは、Tele-ICUプロジェクトのためのネットワークを作るのがなかなか困難な状況でした。
集中治療部あるいは麻酔科として、大きな病院の集中治療室に人を派遣しているような準備が整っていなかったので、行き詰まってしまったのです。

── この問題をどうやってクリアーしたのですか?

一言で言えばコロナ禍があったからですね。2020年4月から5月のいわゆる第1波の際には、県内のECMOを必要とする重症患者がさいたま医療センターへ集中してしまい、現場は大変な負担を強いられました。
ECMO管理ができる施設は県内にも数えるほどしかない中、次の波に備えて負担を分散させる必要があると考えました。
その時、ふと2018年に厚生労働省が始めた「働き方改革を目指したTele-ICU事業」という補助金事業があることを思い出したのです。
そこで、あまりECMOの経験はないけど受け入れ意志を持ってくれている病院を探し出し、遠隔で診療支援をさせていただけないかとご提案したところ、県内の5病院が参加を表明してくれました。
運の良いことに埼玉県も協力してくれて申請が認められ、再び時計が回り始めたというわけです。

── どの病院に負担が大きいというリアルタイムな情報も共有できるようになるのでしょうか?

現在は当院ICUからECMOや人工呼吸管理を中心にオンラインでの診療支援を始めることができました。
その形態としては、定期的なミーティングと、必要に応じたオンデマンドの診療支援です。
電話ではなく、実際の患者さんの動画や電子カルテの情報をリアルタイムで共有できるので、一度やると病みつきになる便利さと情報の正確さが利点です。

── コロナ禍で医療の世界でも一気にDXが進んだ印象がありますが、普及に向けた課題についてはどうお考えですか?

Tele-ICUのような遠隔診療への認知度はだいぶ広まってきたかと思います。
実際の臨床現場でもタブレットなどを駆使して、感染隔離領域と情報共有が可能な取り組みをされていることも多くなってきているので、遠隔診療の利点はだいぶ認識されています。
しかしながら、患者を直接診ているわけではない医師から、とやかく治療方針について離れたところから口出しされるのには抵抗がある、というマインドセットの先生方もいらっしゃるのは事実です。
診療の主導権はあくまで主治医にありつつ、集中治療の専門家として標準的治療に基づいたプランを提示することで、結果として質の高い医療を実現するためのお手伝いをしているのだという点をお伝えしていきます。
良い関係性を構築したうえで治療プランを提案し、主治医の先生ご自身で決めていただく、という形です。
また、重症患者診療を担う各病院の働き方改革がtele-ICU導入の目的の一つですので、ネットワーク病院間で宅直医を共有したり、コメディカルが他の施設の医師に気軽に相談できるような関係性を構築しないとなりません。実際、米国のtele-ICUでは、まさにこれが行われているのです。
そのためには、まずは各病院の医師だけでなくコメディカルにも遠隔診療に対するメリットを感じてもらわないとなりません。

── 凄くメリットが大きいですね。

一方で、遠隔診療の限界もあります。
例えばtele-ICUに参加していない、中等症までを見る病院から「新型コロナ患者を診ていたけど、患者さんの状態が悪くなってきた。人工呼吸が必要かもしれない」と連絡をもらうことがあります。しかも、新型コロナ患者さんに気管挿管したことがない。
そういう場合、現地に赴いて実際に気管挿管をしたり人工呼吸器の設定をしたりするようになりました。
そして、ECMOが必要になればECMOカーで当院へ搬送する。
このように、Tele-ICUによる遠隔診療支援だけでなく、より多層なシステムで重症患者さんの質の高い管理を担保する必要があります。
確かに、このシステムを維持するには支援する側に負担を強いるのですが、まずシステムを軌道に乗せる当面の間は仕方がないと思っています。

── 讃井先生、ありがとうございました。

こちらの記事は2022年1月にQuotomyで掲載したものの転載です。