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【#02 中西一義先生】電気生理学の知見を深める仲間の存在

本編に登場する論文

Corticospinal tract conduction block results in the prolongation of central motor conduction time in compressive cervical myelopathy
Kazuyoshi Nakanishi, Nobuhiro Tanaka, Yasushi Fujiwara, Naosuke Kamei, Mitsuo Ochi
Clin Neurophysiol. 2006 Mar;117(3):623-7. doi: 10.1016/j.clinph.2005.11.010. Epub 2006 Jan 25.

── 次にご紹介いただく論文は圧迫性脊髄疾患に関しての研究です。
これも電気生理学的な話だと思いますが、これも大学院生の頃の研究でいらっしゃいますか?

神経生理学の研究をやっていたのですけれども、磁界計測の機械は横須賀にしかありません。広島に戻ってから磁界計測ができなくなったので何をやろうかなと考えていました。
広島大学では私が研修医のころに藤本先生が「電気生理学やろうぜ」って突然言われて、運動誘発電位計測と脊髄機能モニタリングが始まりました。
当時、研修医の私も被験者になって、あちこちに電極をつけて経頭蓋磁気刺激を1日中受けるということをやっていましたね。
それがずっと10年近く続いて、1000症例以上の患者さんのデータになっていたんです。
そのデータを見ていて、気づいたこととかを少し発表していこうかなって思いました。

高知大学の谷俊一先生や山口大学の金子和生先生らが当時、誘発電位の計測をされていまして、広島から近い近隣の先生たちと意見交換がしやすかったです。
学会なんかでも少しマニアックな領域ですので、いつも同じ先生たちと話して色々教えていただいたり、アイデアを出し合っていたのを覚えています。
今回ご紹介するのはClinical Neurophysiologyに掲載された論文ですが、最初に投稿したときの返事がもう凄いメジャーリバイスで、、、かなりの修正を要求されて、ほとんど原型を留めないところまで変わったのです。
それを忠実に直していく過程で、実はレビュアーが非常に身近な先生なのではと思うようになりました。
ご本人ははっきりおっしゃらないのですけど、私が「リバイスをどうやって直そうかなと思ってるんです」みたいな相談の中で「こう直したほうがいいよ」とアドバイス頂いたのを覚えてます。
まわりに運動誘発電位のトップランナーがいらっしゃったので、本当になんでも相談していました。

── なぜ、広島、山口、高知と地域的に固まっていたのでしょうか?

特に固まっていたわけではなく、和歌山医科大学、杏林大学、東京医科歯科大学や名古屋大学、関西医科大学を中心に、全国でモニタリングを含めて研究されていました。
その中で地域的に近い先生方とお会いする機会が多く、のめりこんでいったところがありますね。

── 論文の内容に触れますと、Corticospinal tract conduction block って実際は何をしているのでしょうか?

神経の伝導検査をしたときに波形が出るわけですけれども、電位の振幅が小さくなる現象のことを伝導ブロックといいます。
これは、圧迫などの障害がある部位で軸索が減ってしまっている状態を反映しています。
もう1つの現象として伝導遅延があります。
多くの場合、脱髄によって跳躍伝導が起きにくくなって伝導が遅くなるのです。
運動誘発電位検査で評価されていたのはほとんどが伝導時間なんですね。

── 脱髄に影響を受ける方ですね。

頚椎症性脊髄症やOPLLなどで脊髄障害があったときに、その潜時が遅延しちゃうって昔から言われてたのです。
その理由は、脊髄で圧迫が起こった時に脱髄が起きて伝導遅延が起こっているという風に考えられてたんですね。
その脊髄レベルで伝導遅延が起きているから、運動誘発電位から末梢での伝導時間が遅延すると。
もともとは脱髄疾患で神経内科領域から伝導遅延の報告があったものですから、頚椎レベルの脊髄症でも伝導遅延が起こっていると推測されていました。
でも、そうじゃないんじゃないかって思う出来事があったんです。

広島大学で頚椎後方手術で頚椎を展開したあと、各椎間の黄色靭帯に電極を設置して頭蓋を電気刺激して脊髄誘発電位をとっていました。
それで最も電位の変化がある椎間を探して責任高位の診断をしていたのです。
ところが、各椎間から検出される脊髄誘発電位の伝導遅延がほとんどないと気がついたんです。

── 発見ですね。

術前に外来で中枢運動伝導時間を測定すると、数ミリ〜十数ミリ秒遅延するんですね。
それが脊髄レベルの伝導遅延で起こってるのだとすると、術中の脊椎誘発電位の潜時が圧迫部位で同程度遅延してたら納得しますけど、ほとんど遅延していないんです。
そう考えてたら、山口大学の金子先生が同じことをすでに論文にされてました。
伝導遅延は起きていなくて、振幅がぐっと下がっているので、これは伝導ブロックが起きてるんだと結論されておられました。

── 凄いですね。

ではどこで伝導遅延するのかを考えた時に脊髄前角しかないんじゃないか、という推測になるんですね。
脊髄運動ニューロンを興奮させる際に、脊髄誘発電位が降りてきてシナプスを介して、ある閾値に達するとバーンと脊髄前角細胞に電位が発生します。
その脊髄誘発電位が伝導ブロックによって減衰してしまい、脊髄前角を興奮させるのに時間がかかる。
つまり脊髄前角での時間的加算が遅延に繋がるのでは、と考えました。
例えるならば「ししおどし」ですよね。

ししおどしって、水がちょろちょろ貯まってカッコーンって傾いて水が流れます。それに例えると、水が落ちるスピードは変わらないけど、水の量が減ってる状態が脊髄症における皮質脊髄路の伝導ブロック。
そのために水が貯まるのに時間がかかって、カッコーンといくまでに遅延が起こる。と。
皮質脊髄路の脱髄があってもそこで大きく遅延することはない。
運動誘発電位の経路に前角細胞があるから中枢運動時間が遅延するという結論になったんですね
当初はいろいろな反論をいただきました。

── そんなわけない、って。

すごい厳しいご意見をいただいたんですけど、まあ論文はアクセプトしていただいた。
最初は金子先生と私だけが主張してたことですけど、今は脊髄症における中枢運動伝導時間の遅延は伝導ブロックが原因というところで理解していただけているような気がしております。
手術で除圧すると中枢運動伝導時間は比較的早期に改善するんです。
実際の臨床においても手術してすぐに手の動きが軽くなったりとか、自覚症状が改善することがよくありますよね。

── ありますね。

その臨床経過を考えても、皮質脊髄路障がもし伝導ブロックではなく伝導遅延が主たる原因なんだとすると、脱髄していた神経が再髄鞘化するのには数か月かかるはずなんですよ。
そこで脊髄の除圧術後数日内に症状が改善するのは、例えば神経の循環障害であれば改善しうるのではないかという推論です。
軸索が再生したり、再髄鞘化したりとかは、もっと時間がかかるため、後のフェーズで行われるものだと思います。
この点から考えても、脊髄症における中枢運動伝導時間の遅延は皮質脊髄路の伝導ブロックが主因であることがいえると思うんです。

── いやあ、臨床的にも納得です。

── その後、留学でスウェーデンに行かれますね?
ここは手の外科でしょうか?

スウェーデンのルンド大学に留学しました。
広島大学から留学する時は、膝専門であればピッツバーグ大学だったり、脊椎専門であればヨーテボリ大学に行く先生が多かったんです。
留学先を考えた時に私は電気生理学を専門にやっていたので少し違うなと、越智光夫先生に相談したところ、越智先生も20年くらい前にルンド大学に留学されて末梢神経の再生の研究をされていたのです。
私は脊髄が専門だったのですけれども、学位は末梢神経の伝導を可視化するっていうことをやっていたので、ルンド大学が良いんじゃないかということで留学先が決まったのですね。
その頃のルンド大学では、Lundborg先生とLars Dahlin教授が中心になって手根管症候群など神経障害のある症例の脳機能と末梢神経障害の修復過程との関連を主に研究されていました。
当時Lundborg先生は子供の末梢神経障害は手術して非常に回復がよく、脳の方の変化も若い人ほど良いという論文をLancetに書かれてた

── 凄い先生ですね。

Lundborg先生はすでに退官されていましたが、大学にはお見えになって、精力的に研究を続けておられました。
彼が書いた末梢神経損傷の教科書があるのですけど、その第一版を越智先生が日本に持ち帰って和訳して出版されてたんですね。
私が留学を終えて日本に帰る時に、Lundborg先生から新しい第2版を「プレゼントするよ」って頂きました。
そこには越智先生が翻訳された教科書第1版に、さらに脳機能に関する記載が書き加えられていました。

── 時代を繋ぐ素敵なエピソードですね。

#03に続く

こちらの記事は2022年2月にQuotomyで掲載したものの転載です。