手術室でも医局でもない、
外科系医師に開かれたオンラインでの研鑽場所

【#03 中西一義先生】厳しい意見にも挫けずにやり抜く

本編に登場する論文

Use of prone position magnetic resonance imaging for detecting the terminal filum in patients with occult tethered cord syndrome
Kazuyoshi Nakanishi, Nobuhiro Tanaka, Naosuke Kamei, Toshio Nakamae, Bun-Ichiro Izumi, Ryo Ohta, Yuki Fujioka, Mitsuo Ochi
J Neurosurg Spine. 2013 Jan;18(1):76-84. doi: 10.3171/2012.10.SPINE12321. Epub 2012 Nov 9.

Medium-term clinical results of microsurgical lumbar flavectomy that preserves facet joints in cases of lumbar degenerative spondylolisthesis: comparison of bilateral laminotomy with bilateral decompression by a unilateral approach
Kazuyoshi Nakanishi, Nobuhiro Tanaka, Yoshinori Fujimoto, Teruaki Okuda, Naosuke Kamei, Toshio Nakamae, Bun-Ichiro Izumi, Ryo Ohta, Yuki Fujioka, Mitsuo Ochi
J Spinal Disord Tech. 2013 Oct;26(7):351-8.

── 次の論文はoccult tethered cord syndromeの診断に関する論文です。
珍しい疾患だと感じますが、広島大学には患者さんが集まる歴史があるのでしょうか?

はい、広島大学では精力的に藤本吉範先生がやられてましたし、そのあとも田中信弘先生が手術をやられていたので多くの症例があったのです。
比較的近年に言われ始めた疾患で、なかなか診断が難しい。
他の病院にセカンドオピニオンをうかがいに受診した患者さんが「そんな病気はない」って言われたりすることもありました。
何かいい診断方法ないかって考えて、うつ伏せになってもらってMRI撮像したら何かわかるかなって、思いつきでやってみたんです。
そうすると終糸らしきものが同定されて、補助診断につながるんじゃないかと論文にしたんです。
でも即リジェクトでした。

── え、そうなんですか。
論文中の腹臥位MRI画像をみたら素晴らしい結果じゃないかって思いますけど、、、。

定量的評価がなされていないという理由で即リジェクトでした。
「画像だけ見せて、たしかにそういう風にみえるね」っていうのはダメなんですね。
そのレビュアーのコメントを見て、終糸の位置を何とか定量的に示そうと計測にとりかかり書き直したんです。
そして、リジェクトされた、もう箸にも棒にもひっかからなかった雑誌にもう一回投稿することにしました。
これ、まあ普通は通してもらえないよなと思って、Chief editorに「実はすでにリジェクトされました」って手紙を書いて出したんです。
同じ雑誌でどうかなと思いながら出したところ、今度は一転して受理していただいたんです。
このことで、最初の論文は書き方がよくなかったと反省しました。
それまでは研究は「内容が一番大事。内容でだいたい決まる」っていう風に信じていましたけれど、書き方も重要なんだなというのを知りました。

── Chief editorに手紙を添えてインタラクティブにやり取りするのも素晴らしいですね。

落とされてから期間も2-3ヶ月だったので、覚えてらっしゃるかなと思って。

── 次の論文は凄く臨床っぽい手術の話で、椎間関節を温存する手技で腰椎すべり症の患者さんにも効果的だという内容でしょうか。

広島大学脊椎班のこだわりとして、非固定除圧術というこだわりがありました。
馬場逸志先生から始まり、住田忠幸先生、藤本吉範先生と、ずっと引き継がれていたんですね。
当時から後方椎体間固定術が主流でしたので、なかなか通りにくいんだと藤本先生には励ましていただいたのですけれど。
私は正中進入から片側進入に切り替えてやっていたころでした。
その手術成績に、術前術後の画像や術中写真をイラストにして除圧方法を説明するんですけども、、、本当に厳しかったですね。
いくつかの雑誌にリジェクトされて、いずれも、こんなので十分な神経の除圧ができるわけないっていう風な厳しい評価ばかりでした。
論文が受理された時はやっと英語論文に出来たっていう思いがありました。

── なるほどですね、ありがとうございます。

── 2019年に広島大学大学院医系科学研究科生理機能情報科学教授に御着任されています。

ここは医学部保健学科というところで、理学療法士、作業療法士、看護師の学部です。そこで生理学の授業を担当することになって、そのころから理学療法士、作業療法士の大学院生を指導するようになりました。
動作解析をメインでやったんですけど、なかなか面白くてですね、少しずつ論文になってきています。
私が出してる動作解析関係の論文はすべて理学療法士、作業療法士が書いた論文ですね 。
整形外科に近い領域ですし、彼らも興味持ってやってくれたと思います。

── その後、2020年に日本大学医学部整形外科教授になられます。

教授選考は新型コロナが流行る前でしたが、その後に日本で新型コロナが流行して、広島で予定して頂いていた祝賀会や送別会とかは全部中止でしたね。
広島から東京に来て、今までお世話になった先生方にご挨拶に回ろうと思って計画していたのですけども、すぐに緊急事態宣言がでたため、それも出来なくなってしまったという時期です。

── 新型コロナ禍もあり、教室運営のやり方も難しいかと思います。
教授として気をつけていらっしゃる点は何でしょうか?

医局員や患者さんもそうですし、他のスタッフも看護師さんも含めて、医療に携わる全ての人が幸せになってくれることが一番の夢ですね。
そのためには、医局の皆もやりたいことがそれぞれあると思いますし、医局員が一丸となって同じ方向を向きつつ、個々の持ち味を自由に存分に発揮できる整形外科学分野になればなと思っています。
新米教授で上手くいかないことが多いんですけども。

── 母校に教授で帰るって、どういうお気持ちでしょうか?

母校の皆さんが驚いてましたし、私自身も予想外でした。
これまでご指導いただいた先生方のおかげに他ならないですし、母校に戻ってみると先輩・後輩・それから同級生にさっそく支えていただいております。
それから、そう、私の同級生が眼科の教授になったんですよ。
中静裕之先生といって、名前も近いので学生時代の出席番号が隣でしたね。
律儀で優秀な同級生でしたが、私は部活などで手一杯であまり勤勉と言えない学生でした。
今は教授会で隣の席に座っているのは感慨深いです。

── 中西先生、ありがとうございました!

こちらの記事は2022年3月にQuotomyで掲載したものの転載です。