
【稲葉裕先生 #02】股関節と小児整形外科という専門性
本編に登場する論文
Radiographic improvement of damaged large joints in children with systemic juvenile idiopathic arthritis following tocilizumab treatment
Yutaka Inaba, Remi Ozawa, Tomoyuki Imagawa, Masaaki Mori, Yoshinori Hara, Takako Miyamae, Chie Aoki, Tomoyuki Saito, Shumpei Yokota
Ann Rheum Dis. 2011 Sep;70(9):1693-5. doi: 10.1136/ard.2010.145359. Epub 2011 Mar 14.
── 今回御紹介いただく論文は、先生が小児整形外科グループにも所属していたからこそ出版された論文だと思います。
先生と小児整形外科との関わりについて教えてください。
はい、自治医科大学卒業後の義務年限中に2年間診療所に行くのですね。
すると、次の年には自分の好きな県内の施設に行けるのです。
そこで、私は神奈川県立こども医療センターを選択しました。
先輩から、神奈川県立こども医療センターは小児病院では日本では有数の施設だぞ、成育医療センターの次に古い伝統があるんだ、と伝え聞いていたのです。

小児整形外科は一般整形外科とは完全に別物です。
子供は大人の患者さんとは、治る力ふくめて全然違う。
県立こども医療センターには亀下喜久男先生という、足の専門の先生がいらっしゃったのですけど、素晴らしい先生で大変勉強になりました。
── こども医療センターで医長を務められていて、横浜市立大学に入局することになるのですが、他の選択肢も考えられたのでしょうか?
そのまま、こども医療センターに残るとか?
実は、こども医療センターの総長から「ここにずっといないか?常勤のポストを用意するから」って言われたのです。
ところが、義務年月の最後は厚木病院で医長として過ごすことになっていました。
厚木病院整形外科は慈恵医科大学整形外科の関連病院だったのですが、厚木病院の院長がわざわざ慈恵医科大学の医局と調整してポストを用意してくださっていたのです。
ですから「その後に、こども医療センターに行ってもいいですか?」と総長にはお返事をしました。
── こども医療センターに長く在籍されるおつもりだったのですね。
少し複雑な話なのですが、こども医療センターの常勤ポストは横浜市立大学整形外科でもっていたのです。
その当時の横浜市立大学教授が先々代教授の腰野富久先生で、横浜市大の席をどんなやつかもわからないヤツに座らせるのはちょっと、、、ということで、すぐに横浜市大の医局長から呼ばれました。
つまり、私を入局させればそこの席は横浜市立大学のままになる訳なので、「入局しないか?」と。
教授室に呼ばれて囲まれながらですね、笑。
そこで「わかりました。」ってお返事をして、横浜市立大学に入局が決まったのです。
── そんな入局のエピソードがあったのですね。

── こども医療センターから大学に行くことになったエピソードはありますか?
こども医療センターで2年間過ごした時に私の義務年限に区切りがつきました。
もう横浜市立大学に入局しているので医局にいるっていうのが普通なんですけど、これまでの話にあったように、私は自治医科大学や慈恵医科大学とも関わりが強く、いろんな選択肢があったように思います。
そんな時に私が医局から離れて自治医大に戻るような噂がたって、横浜市立大学腰野教授に呼ばれました。
そういう話は具体的にはないです、っていうお返事をしたら
「なんだそうなのか。でも君はそんな自治医大に戻るどうこうって言ってるくらいだから大学で研究がやりたいだろ」って、その場で次の4月から大学に行くことになったのです。
── なるほど。それで大学で医局長を務めた後に留学されるわけですね(第1回参照)
帰国されてから、今回の論文を書かれています。
若年性特発性関節炎に対するトシリズマブ治療で股関節がリモデリングし改善する、という研究です。
横浜市立大学先代小児科教授の横田先生がLancetに書かれた論文があって、関節リウマチに使われている抗Il-6受容体抗体トシリツマブが、若年性特発性関節炎のsystemic typeにすごく効くという話です。
それで、小児に対する治験を鹿児島大学と横浜市立大学の横田先生のところでやることになったのです。
すると多くの患者さんが横浜市立大学にくるのですが、横田先生からトシリツマブ治療で関節の評価してくれと私が任されたのですね。
横田先生は臨床的に熱い先生で、小児患者さんの関節の具合が悪いと、すぐ私に電話を掛かけてくれるような関係でした。
すると、今まで見たこともないような治り方をする関節がたくさんありました。

横田先生たちは小児科なので若年性特発性関節炎のスコアがどのくらい良くなったか等の全身の病勢評価をLancetなどに出すのですけど、関節評価ってなかなかできないですよね。
今はいろいろなスコアリングがあるのですけど、やっぱり整形外科じゃないとできないところがあったので、私たちがやらせてもらえた。
驚くべき変化があったので、リウマチ領域の中ではインパクトファクターの高いEURARが発刊しているAnnals of the Rheumatic Diseasesに投稿しました。
するとEditorから非常に面白いけども、これをLetterにしてくれたらすぐに採択するといわれました。
それで、とりあえず出すってことで。
その後、関節が改善する症例と改善しない症例があったので、その違いについて大学院生と研究した論文がThe Journal of Rheumatologyに掲載されました。
治療しててもMMP-3があまり下がらない症例は関節にも良くない、という論文です。
トシリツマブで関節が改善するという内容は、症例数を増やしたところでModern Rheumatologyにも掲載されました。
小児整形の中でも小児科の先生方と共同研究できたという、自分の中でも面白い研究でした。
#03に続く
こちらの記事は2021年5月にQuotomyで掲載したものの転載です。