手術室でも医局でもない、
外科系医師に開かれたオンラインでの研鑽場所

Qolo株式会社 清水如代先生

── 今回はQolo株式会社、メディカルアドバイザーそして筑波大学附属病院のリハビリテーション科の清水如代先生にご登場いただきました。よろしくお願いします。

お願いします。

── 簡単な自己紹介をいただいてもよろしいでしょうか?

よろしくお願いします。整形外科出身のリハビリ医です。今は義肢装具の処方や、脊髄損傷の方、切断者の方などを支えるリハビリテーションをライフワークと思ってやっております。その中で、いまQolo株式会社で起立着座支援の車椅子を作っております。

── よろしくお願いします。まず、Qoloの成り立ちを教えていただくことできますか?

Qolo自体は、筑波大学の人工知能研究室で開発されたものなんですけれども、立って移動するという機構を持った車いすです。当初は腰椎レベルの脊髄損傷者、下肢麻痺の方に対して作られていました。
2015年に筑波大学に戻った際に、脊髄損傷の方に私が関わっていたので「被験者として参加できる方はいませんか」とお声かけをいただいたんです。けれども、腰椎レベルの方は立つことができる方もいますので、実際に必要になってくるのは胸椎レベルの方じゃないかという話をさせてもらいまして、そのまま検証を続けていきました。
患者さんにお声がけをすると「じゃあ手伝うよ」と皆さんいろんな形で支えてくださいました。Qoloは車椅子の立ち上がり機構自体はバネで行っていて、モーターを使わないという特殊な機構です。もともと腰椎レベルの方を対象としていたので、最初はなかなか立ち上がれなかったんです。検証しながらいろいろなところを変えていくと、最初は立ち上がれなかった方も少しずつ立ち上がれるようになっていきました。胸髄損傷で完全麻痺の方でも立てるし、あとは立ち上がり機構自体にも可能性があるのかなというところで、現在開発を進めているところです。

── 先生が参画する前は、工学系の人達だけでやっていたのですか?

筑波大学は医工融合研究が積極的に行われているというベースがありまして、工学系の先生方に私の前任のリハビリの先生がコメントをされたりして、Qoloは始まり進んできましたそこに私が入って密に関わっていく形になったという感じです。

── 工学系の方の技術的シーズから始まったのですか?

Qolo代表取締役の江口洋丞さんが大学生時代に研究を始めたのがきっかけです。ご家族のおばあちゃんがなかなか立ち上がれなくて、何かサポートしたいと思ったのが始まりだったと聞いていますので、ニーズを体験していたのだと思います。
あと、立ち上がる機構自体は、体幹を前にするとバネで立ち上がるという形で非常にシンプルなもので、彼らのシーズにも合っていて、それで少しずつ進んできたという感じです。
解剖的なことは勉強していても、詳しかったわけではないのですが、Qoloの立ち上がり機構は動きが驚くほどスムーズだったので、非常に可能性があるなって私も驚いたところがあります。
なぜこれがスムーズなのかっていうのを後付けで理論を付けて見ていくと、いろいろ工夫されてる点が結構ありました。

── その後付けというのは、工学的につくったものを人間工学的に先生がリハビリドクター目線で研究しているって感じですか?

そうですね。例えばなんですけれど、整形外科だとロコモスクワットとかをやると思いますが、膝を前に出さないでスクワットするって結構難しいですよね。なかなか高齢はできない。Qoloは体に負担の少ない形の構造が取られていて自然にロコモスクワットができるような形ですっと立ち上がることができる。非常に医師が求めるものと近かったので凄く面白いなと思いました。
面白かったので私がグイグイといろいろやって進めていったみたいな感じです。

── 筑波大学ならではの医工融合研究だと思いますが、HALもそこから出てきたのでしょうか?

HALは結構前にできていまして、医工融合研究というよりも、工学の先生が頑張って作っているところです。そこから、整形外科の山崎正志教授が積極的にHALとも関わっていきましょうということでお声がけをいただいて、HALともたくさん関わりました。HALの対象患者さんとQoloの対象患者さんがちょうど合致するところがあるので、HALをやって落ち着いた方に「これどうでしょう?」とQoloへのコメントを聞ける機会がありました。

── HALでリハビリしてくださってた患者さんがいて、 胸椎レベルの脊髄損傷患者さんに声をかけやすいっていうのが、先生の中でプラクティスとしてあったんですね。

もともと私が見ていた脊髄損傷の方に声かけて、HALをまずやり、HALをやった後にじゃあQoloはどうかなみたいな感じで。患者さんは皆さん協力的で「面白いならやるよ」「手伝うよ」と。本当に彼らがいなかったらHALもQoloも絶対に進んでいないので、非常に感謝しています。

── 実際に医師が関わらないと患者さんのリクルートは、工学系の先生だけだと難しいんじゃないですか?

はい。それはありますね。その役割は自分が担わなくてはいけません。また、安全面でも本当に危険な機械だと患者さんを乗せられません。いくつか「現段階では患者さんを乗せるのは厳しい」とお話したこともあります。自分も先に乗っていろいろ検証していき、これであれば、自分の大切な患者さんに乗っていただいて検証ができるかなっていうような状況確認をして進めていきました。
最初のQoloは非常にスムーズでしたが、その後はいろんなところを改良しながら、いろいろな患者さんに対応できるようにしていくんです。なんていうんですかね。開発は1本道ではなくて、いろいろなことがある中で、どのぐらいの損傷高位・重症度の方であればできるか、と少しずつ検討しつつという。

── HALやってQolo、という流れがあるとおっしゃっていたと思うのですけれど、HALとQoloの目的の違いは何なのでしょうか?

自分が関わった方は、HALでリハ自体は基本的には終了している方にQoloを勧めていました。復職・復学・主婦になるというゴールに達して、もうADLとしては獲得できてるんだけれども、プラスアルファでやってみたいという方々に対してご提案をしていました。
ちなみにHALはもともと完全下肢麻痺の方の下肢に電極をつけるタイプのものなんですけれど、上肢と下肢が連動して動いていることに注目して、上肢に電極をつけると、例えば右足で左手を動かして、左足で右手を動かしてっていう動きで交差していくと、腕のトリガーで歩けるということが分かりまして。

── え!すごいですね。

頚髄損傷のC5完全麻痺の患者さんから可能でした。肘で膝を動かして、肩で股関節を動かすという動きなんです。そうやっていて、脊髄損傷レベルの方で、筋活動が改善した方が2名いまして、興味深い結果でした。
そういう流れの中で「面白いね」なんていう話を患者さんがしてくれて、「こういうのも今作ってて、、、」って言ったら「じゃあ手伝いますよ」みたいな流れになって、Qoloに参画してくださる人が多かったです。HALを使ったリハビリには時間がかかるので患者さんとお喋りしながらできるのです。HALは訓練というか治療だったので、生活に特化した形のQoloもまた少し違う面白い結果がでてくると思います。

── なるほど。じゃあHALは訓練、Qoloは生活の移動手段という違いですかね。

と、最初は思っていたんですが、Qoloを使っていくなかで立ち上がりの動きが非常にいいので、「これで訓練したい」って言ってくださった患者さんがいました。なるほど、と思いまして、不全麻痺の患者さんの立ち座りの訓練になるなと。そして、やっていくなかで、これは完全麻痺の方の腹筋も鍛えられるんじゃないかなと思いました。
完全麻痺の方って一髄節違うと全然できることが違います。なかなか腹筋を鍛えようとしても、随意的に腹筋を鍛えて動作にしていく方法って、なかなかないのです。これで残存するところを少しでも広げられるんじゃないかなと思っています。

── 素晴らしい。確かに。体幹鍛えろとかって言われても難しいですもんね。

なかなか難しいですが、胸髄損傷の方って本当にレベルによっても違いますし、重症度もバラバラなんです。やっぱりASIAスコアリングって結構ざっくりしています。同じ損傷高位・ASIAスコアリングの方でも、体幹機能やトランスのうまさは患者さんによって全然変わります。鍛え方というか維持する点で全然変わっていくなと感じますので、やはり廃用の要素もかなりあると思っています。
皆さん、もっと可能性を持ってらっしゃるんじゃないかな、と。

── 素晴らしいです。患者さん自体がADLを既に獲得できていて社会復帰している中で、Qoloで「立ちたい」っていうことを口にしたのでしょうか。

私が想像していたよりも「立ってみたい」とおっしゃってくださいました。いろいろ話をしていくと、例えば、買い物の時に立ちたいというニーズがありました。「上の物を取ってください」っていうのは言えるけれど、「これ、いらないな」っていう時に「いらないけど。もう1回頼むのもなあ」って買ってしまうっていうのを多くの方が言っていました。
座談会を開催して、この車椅子は必要か、立って移動することに意義があるかどうかというのをいろいろな方に聞いたんですけれど、すごく盛り上がったんです。先ほどの買い物も1つですし、あとはアクティビティも。例えば、学校の先生は、生徒に叱ったり注意したりする時に、座っているのと立っているのとでは全然違うんだって話をされていて。

── なるほど。

はい。その方は少し立つことはできる方だったので、注意する時はわざわざ立つ、とおっしゃっていました。とすると、プレゼンテーションも立っていると違うだろう、とか、 本屋さんの話、とか。あと、車が大好きな方は洗車してみたいっておっしゃっていたり、とか。家事のときに棚から物を出すのも実は大変で、ユーザー用に作られた台所だったらできますけど、他の方と一緒に使うと台所としてはやっぱり使いにくい。
話していくと、結構立てばやれることっていうのが出てきました。

── すごい深いインサイトを得られている座談会ですね。Qoloは凄くユーザーの方の声を聴いている印象です。

皆で話しているのが特徴ですね。エンジニアの声と医療サイドだけでなく、ユーザーがチームに入っています。ユーザーかつ広報も担当してくれている方がいるのが強いですね。その三者があって成り立っているかなというのはありますね。

── 素晴らしい。先生はQoloに巻き込まれている側の人でもあるし、巻き込んでいる側の人だと思いますが、仲間を集める巻き込み方のコツってありますか。

面白いなと思って声をかけているだけなのですけど、患者さんが「自分と同じぐらいなんだけど、この人はどうかな?」って別の患者さんをご紹介してくれたりもします。紹介だけだと病状がわからないので、そういう場合は主治医の先生の許可を頂いたりしています。
私たちがコミュニケーションをとってラポール形成ができている患者さまだと、すぐエンジニアの先生たちのことも信頼して進めていってくれるような感じです。ユーザーさんたちも含めて、皆チームという形でやれていて、結構チームとして成熟しているかなと思います。

── 忙しいかと思いますが、先生の時間配分やエフォートの割合はどうなっているんですか?

リハ医としての業務が1番多いです。リハの業務をして、プラスアルファで大学職員として研究をやっています。研究の中で時間をかけているのはQoloが多いと思いますが、やはりリハ医としての仕事の方がエフォートとしては圧倒的に大きいです。

── Qoloの活動を通して、先生のリハ医としてのキャリアアップにもなっている側面もありますか?

そういう感じですね。はい。

── 起立型車椅子を移動手段として開発しているリハビリ界隈のスタートアップはあるんですか?

実際、あまり市場としては広がっていないです。ペルモビールという大きい会社があって、かなり価格が高くて、もっと重症な方向けの大きなものがあります。立つ車椅子の取り組みはあるけれども、そんなに使われたりはしていないっていうのが正直なところかと思います。ニッチな市場だと思いますけど、実際は使ってもらえる方は少なくないと思っています。

── そうですよね。頚椎損傷だけじゃなくて、胸椎レベルの脊髄損傷も多いですし、高齢化社会で圧迫骨からの続発する麻痺も増えると思います。

対麻痺の方自体はそんなに多くなくても、立ち上がり機構ということで考えると、本当にざっくりと下肢機能障害がある方が対象になるかなという風には思ってるんですけれど。
それだけでなく、セラピストの先生方って腰が痛くなったり、結構重労働だと思うんですよね。特に麻痺の重い方だと、理学療法・作業療法2人で一緒にサポートしてどうにか立ち上がり訓練ができるかどうかって方もいらっしゃると思うんですけれど。そういった方の負担軽減としても可能性はあるかなという風に考えています。
まずはチルトテーブルをもう1個買う代わりにQoloを買っていただけないかな、と。移動できるので、例えば集中治療室に持っていってもいいかなと思います。チルトテーブルは完全に電動ですけれども、Qoloは立ち上がりという随意的な感覚でやるので、立ち座りの訓練で使ってもらえないかなと。

── Qoloはもう完成系で市場に出ているのでしょうか?

鋭意準備中という感じです。まず立ち上がり機構を先に使っていろんな方や病院さんに試験的に使ってもらっています。そのあとにモビリティバージョンの構想も動いていますので、段階的にモビリバティバージョンを使っていってもらえればいいなと思います。

── いろいろな病院でQoloの研究も進んでいければ?

いま、筑波大学の大学院生がQoloを題材に課題を進めているんですけれども、筑波大学に限らず本当にいろいろなところでQoloを使っていただきたいです。
いろいろな使い方、いろいろな患者さんに使っていただいて、いろいろな研究を皆さんにしていただければいいなと思っています。

── アドバイザーに関わっていて、実は経営などハンドルをもっとグリップして自分でグイグイやりたいんだけど歯がゆいとか、実はあったりしないですか?

あー、でも私が臨床の現場にいることが、患者さんのリクルートにつながったり、局面でQoloがあったらこの場合はどうかなと着想を得たりすることもあります。だから、自分が臨床の場にいることが、このチームでの必須なのかなと思っています。むしろ、その立場で患者さんと密に関わっていくことが自分にとっての強みなのかなと思います。

── なるほど、ですね。自分で起業しようとか、もともと考えてなかったのですか。開発とか、好きそうですけど。

全然思っていないです。主婦なので、なかなかそういうわけにもいかず。面白そうだなとは思いますけれど、自分でどうこうしようっていうのは全くないですね。
血栓予防機器とか義手や義足のソケットを開発は今もやっています。いくつかの別のプロジェクトが並行して動いています。

── 先生みたいにアドバイザーになりたいって人は、どうやったらアドバイザーになれるんですか?

うーん、どうですかね?
医工融合研究がベースにあって、我々だと医師と医療者とエンジニアのコミュニケーションができるチームが既にありましたから、少し特殊だったと思います。他の業種の方とディスカッションしていくと、話してるうちに想像していたものじゃないものがどんどん浮かび上がってきて、、、そういうのが面白いので、異業者の方とコミュニケーションをとっていくってのが良いかなと思います。

── うん、そうですよね。病院で勤めていると、あまりそういう機会はなかなかないですもんね。

そうですね。確かに、筑波大学で働かせてもらっているので、そういうベースのあるとこにいられているっていうのは、幸運だったかなとは思うんですけれど。

── 最後に先生からQoloの宣伝をお願いします。

もしコロにご興味をいただいた方に関しては、ご連絡をいただければ是非アピールしたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
例えば、茨城近郊とかであれば、持参して乗っていただいたりできると思いますし、企業展示のような形で学会展示も少しずつ進めていけるかなとは思ってます。

── 本日はQoloメディカルアドバイザー、そして筑波大学附属病院のリハビリテーション科の清水如代先生に、ご登壇いただきました。清水先生、ありがとうございました。

ありがとうございました。