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【松田秀一先生 中編】時流に乗るには時流を知ってないとできない

本編に登場する論文

Patellar tracking and patellofemoral geometry in deep knee flexion
Takaaki Moro-oka, Shuichi Matsuda, Hiromasa Miura, Ryuji Nagamine, Ken Urabe, Tsutomu Kawano, Hidehiko Higaki, Yukihide Iwamoto
Clin Orthop Relat Res. 2002 Jan;(394):161-8.

Postoperative alignment and ROM affect patient satisfaction after TKA
Shuichi Matsuda, Shinya Kawahara, Ken Okazaki, Yasutaka Tashiro, Yukihide Iwamoto
Clin Orthop Relat Res. 2013 Jan;471(1):127-33.

── 今回ご紹介いただく最初の論文は、松田先生が筆頭著者ではなく指導的立場だったということで、筆頭著者が諸岡孝明先生のパテラトラッキングの研究です。

若い人に伝えていることは、まずは指導されて研究するけど、次は自分が立案して研究する、そして、最後は指導して後進の研究者に論文を書かせるという段階があって「あなたは今セカンドステージの入口にいるよ」とか、そんなことを伝えています。私自身も本論文では、諸岡先生がとても優秀な先生であったということもありがたかったし、指導してきちんと仕事になった研究として嬉しかったですね。
この研究のMRIも、うちの実家で撮像しました(笑)。

── 当時のTKAに関する研究の背景はどうだったのでしょうか?

膝の深屈曲に着目していた時代でしたね。術後の膝をできるだけ曲げようとしていた時代だったかもしれません。

── なるほど。深屈曲時の膝がどうなってるのかを画像評価する研究が多かった印象はありますか?

あまり多くはなかったかもしれません。MRIを見ていて、内側と外側の形状が違うなと気がついて、何が膝を深屈曲させるミソなのかなと思って比べてみたら、深屈曲時の膝蓋大腿関節の形状が非対称の形状だったことがわかったのです。
後に、九州大学でTKAのインプラント開発をしますが、形状を左右非対象にして膝蓋骨コンポーネントが沈み込むようなデザインにしているんです。医療機器開発にも使えたという意味でも思い出に残ってる論文であります。泉工医科工業株式会社と一緒にインプラントを作って、PF部分の形状は諸岡先生の研究結果を取り入れています。

── まさに産学連携ですね。

そうですね、はい。

── 少し話が逸れてしまいますが、松田先生がソフトバンクホークスのチームドクターを務められていたのはこの頃ですか。

よくご存知ですね(笑)。
王監督時代の最後ぐらいでしたけど、メディカルもトレーナーも一新するタイミングがあって、医師の方も九州大学でどうかという話が岩本幸英教授のところに来たんです。どうするって言われたから、ぜひ引き受けさせてくださいって返事して、、、僕がやっていたのは5年間くらいですね。

── 野球やスポーツ整形外科の分野も興味があったのですか。

現在は主として人工関節を行っていますが、膝の半月板や靱帯の損傷、軟骨損傷も含めて治療していたのでもちろんスポーツ外傷にも興味がありました。肩肘とかはあまり手術したことはなかったんですけど。学生時代は野球部で、野球を見るのもするのも好きだったんです。
ぜひ、やらせてほしい、と。

── またとない機会ですね(笑)。

最初はとても緊張しました。ホームゲームの時は僕らが球場で待機して、何かあったら対処しなくてはいけない。こういうことを他のスポーツドクターの前で言うのは恥ずかしいんですけど、なんと言ってもプロ野球選手ですから、すごい心細くて初日は2人で行ったこと覚えてます(笑)。当直を2人でするようなもんです。

── プロ野球のチームドクターだと、シーズン中のホームゲームに全部付き添うのですか。大変ですね!

交代で行ってましたから全部僕じゃないので大丈夫でした。
ただ、MLBのサンディエゴ・パドレスだったかな。そこのチームドクターをやっていた医師と仲良かったんですが、聞いたら、全試合行かないといけないって言われました。可能な限り把握しとかないと、信頼は得られないぞ、と。

── 九州大学の准教授になった後に、2012年に京都大学整形外科学講座教授に就任されます。

まさかと思いました。色々な状況があって最終的に私が選ばれたということで、凄いことをしたからとか、凄い実績があるからというわけでもないです。いつも「たまたま選ばれました」って言ってます。ただ、九州大学のお世話になった先生方がとても喜んでくれたことが嬉しかったです。

── 九州大学から京都大学にご栄転される時に、どういう感じで入っていこうみたいな、心構えはどうしていたのでしょうか。

とにかく自分ができることしかできませんから。選んでいただいたからには恩返しできるようにしようと思っていました。とにかく伝統がある教室で、優秀な人が集まっていることは分かっていましたので、現在いらっしゃる先生方と一緒に仲良く1人ずつ、もし何かマインドを変えていく必要があるものがあるとしたらお手伝いをする形で。
やっぱり自分が行くからには何か今までと少し違うことはしなくちゃいけないとは感じてはいましたが、急に変えていくというよりは、京都大学と九州大学のそれぞれの良い点を合わせたような形でできないかなと考えながらやっていきました。

── いきなり改革だ!というよりも、まずお互いを理解してみて、なのですね。

はい。いきなりこちらの価値観を押し付けるようなことをするのは、逆の立場だったら、やっぱり嫌だと思いますし。

── この頃にTKA後の満足度について研究した論文をpublishされています。

この研究はほとんど九州大学でやったもので、publishされたのが異動後というタイミングでした。
論文のきっかけとしては、Knee Societyのメンバーだったこともあって、満足度を調べましょうという気運が少しずつ出てきているのを感じていました。そこで、新しいスコアリングシステムが出たので、アメリカ人よりも真っ先に使って、バーっと500人くらいにアンケート出して回収し、それを解析してアメリカのKnee Societyで発表して、論文掲載されて、、、そうしたら結構引用される論文になりました。グズグズしてたら他の施設から絶対にすぐ出てきますからね。この論文は素晴らしいアイデアが詰まった論文じゃないですけど、スピード感をもってやったら上手くいったという事例です。タイトルも短くしています。学問の本質ではないですが、短いタイトルで発表した方が注目され、引用されやすいと思います。

── 勉強になりますね。時流を知ってないとできないじゃないですか。先生は特定の国際学会に毎年出席されているのですか?

アメリカ整形外科学会、そしてクローズドな会ですがKnee Societyには参加しています。Knee Societyには膝オタクの人が集まってくるので、face to faceで色々話して最新情報を共有できますので、その2つは行くようにしています。

── Knee Societyってクローズな会なのですね。

はい、会員数は限定されていて、65歳以上かそのくらいになると名誉会員みたいになって、その空きポストをまた募集するみたいな形です。私を推薦していただいた1人はWhiteside先生で、もう1人も結構有名な方にお願いしました。
海外の知り合いを増やすということについては、以前Knee Societyのトラベリングフェローに選んでいただいた際に、米国のいろんな施設を訪問するのですけど、知り合いになった人は離さないという意気込みでやっていました。2〜3日滞在しただけじゃ覚えてくれないから、それからずっとクリスマスカード出すとか、論文が出たら「こういう研究しました」とか情報を流しながら連絡をとり続けていました。日本で上司が学会を開催する時も「この人どうですか」と言って招聘したりしました。研究の本道からは外れるんですけど、こういうコミュニケーションをとっておいたおかげで、クローズミーティングにポツンと1人で行っても皆と楽しくやれるし、推薦をもらったり、いろんな共同研究も進みました。トラベリングフェローはすごく大事な機会だから1回旅行して終わったらもったいなさすぎます。そういうコネクションはすごく大事にしたくて、律儀に交流の機会を増やす努力はしました。

── トラベリングフェローに行っても、いろいろ訪問してプレゼンテーションして、家に呼ばれてワイン飲んでお終いだったら、、、それだけだと絶対に推薦されないですよね。

それだけだと覚えてもらえないですよ。しつこくやりました(笑)。

── 素晴らしいですね。

後編に続く