
【斎藤充先生 #02】コラーゲンの老化マーカーによる骨折リスク解明
本編に登場する論文
Nonenzymatic collagen cross-links induced by glycoxidation (pentosidine) predicts vertebral fractures
Masataka Shiraki, Tatsuhiko Kuroda, Shiro Tanaka, Mitsuru Saito, Masao Fukunaga, Toshitaka Nakamura
J Bone Miner Metab. 2008;26(1):93-100.
── 今回の論文は臨床論文です。多施設のコホート研究のようですが。
そうですね。東京慈恵医科大学OBの白木正孝先生が東京大学老年病内科 折茂肇先生の講座で老年医学をやられた後に、ご実家の長野県あずみ野でお父様がやられていたクリニックを継がれたんですね。
そこで患者さんのコホートデータを取り始めたのです。
今ですと、もう20年ぐらいの4-5000人のデータが、血液や尿のデータ含めて蓄積されています。
そこで、いろんな解析をして縦断的研究ができるようなシステムになっているのです。
白木先生は尿中のペントシジンが高い人が骨折しているという知見を得ていて、温めていたようです。
それで、私が学会で骨のペントシジンが高いと骨折しやすく、骨が弱くなると発表したのを聞いてくださって、共同研究を始めることになったのです。
── ご開業されていてコホート研究しているなんて、白木先生も凄いですね。
そうですね。
成人病診療研究所 白木医院っていう名前でいつも和文も英文も論文を書かれています。
クリニックの中に巨大な冷凍庫がものすごい数あって、何十年にわたる血液とか尿のサンプルが全部とってあって画像も定期的にとっておられます。
── この頃の斎藤先生のご所属は?
大学院生活が終わって本院に3年間行って、それからうちの関連病院の国立病院機構宇都宮病院に5年半いました。国立宇都宮病院には臨床研究部という部署がありました。
いま院長になられている田中孝明先生は研究と臨床をやっておられる凄い先生で、その方が臨床班として所属していた股関節・膝関節の外科に加えて,臨床研究部で研究しろよって言ってくれて。
大学の研究室から宇都宮にHPLCをハイエース借りて持っていきました、笑。
昼は臨床と手術をたくさんやって、夜と週末に承諾を得た患者さんの骨から分析をしたり、動物実験も沢山してたんですね。
あそこでのの5年半はすごく大きかったです。

臨床をしながらの分析は大変でしたが、手法自体はもう確立しましたので、あまり家に帰らずにやってれば分析結果は出てきます。
自分はこれしか道具がないので これでやっていこうと思って。
宇都宮にいたときに、骨折している人と骨折していない人のデータを比べて、骨折している人にペントシジンが多いということを初めて気づいたんですね。
クロマトグラムを見てると、ペントシジンのピークは骨折している人だけ毎回高い。
これは大変なことが起きていると感じ、すごい勢いで分析をしました。
学会で発表して注目されましたが、当時は発表番長でして、あまり論文書いてなかったんですよ。
いろんな先生から「あれ論文にした?」って毎回尻を叩かれて、、、論文にしなきゃだめだと心底思ってですね。
頑張って論文にしてから、色んなところから注目して頂けるようになりました。
── クロマトグラムの結果を眺めていた、というエピソードがでてきました。
「データを眺めていて異常値を見つけるのが大事」という考えもあれば、「あくまで臨床現場の仮説が先でデータは仮説検証するために使う」っていう考えもあると思います。
どちらも大事だと思います。
私の場合、昼間に臨床しているため実験する時間も限られていましたので、すでに論文化されていることを自分のデータで出しても意味がないと思っていました。
スタンスとしては、臨床で沸き上がった疑問を夜な夜な実験で解明するというものです.また,一つの研究を始めるあたって、その分野の総説が書けるぐらいまで100-200本ぐらいの論文を全部集めて、トレンドや既知のことと未だわかっていないことを明らかにして、全部一通りを頭に入れます。
そういう前段階があってからデータ分析していき、クロマトグラフィで全然違うデータが重なって出てくるってことはきっと何かおかしいかもしれない、という気づきが生まれます。
つまり、自分がやる分野に関しては全部ある程度把握して、それからやるタイプですね。
ですので、分析結果が同じようなデータだったら既知の見解と同じようだなぁ、なんですけど。
違う結果がでていると、「これ、凄い、凄い!」みたいになります。
そういう時のゾクゾク感っていうのは、臨床で手術をして患者さんに喜んでもらった外科医の喜びとは全く別の景色です。
それを臨床やりながら研究やろうとする先生には味わってもらいたいという風に思ってます。
── 異常値を見つけたときに凄いことが起きてると考えるわけですね。
ついつい、「測定誤差だな」とか「たまたまだ」とか、別の捉え方もできちゃうかもしれないんですけども。
田中孝明先生が口癖で「何かおかしいは絶対におかしい」っていつも言うんですね。
臨床でもそうで、手術しながらでも何となくこの手触りはおかしいと感じる時は何か起きているから絶対立ち止まれ、何かおかしいは何かおかしいだけでは済まない事が多いぞって。
それが研究でもそうだってのは教わってましたから、異常なことが生じているときには、本当にただの何かおかしいだけの事なのかどうか突き詰めていこうという風に思っていました。
── 本当に勉強になります!
臨床もして研究もして、、、ですと、学会発表まではいくけど論文化まで頑張るのが本当に大変だと思います。
先々代の藤井克之教授が医局員に「学会発表なんて何のエビデンスにもならないから英文書け書け」って言いまくってたんですね。
その意味がその当時は私もわかっていませんでした。
有名なラボにも、どこにも留学してませんから、論文を書く文化的な教育を受けてなかったので、、、学会発表して注目されたりすると「これ論文になってますか?」っていうのをすごくいろんな先生に聞かれるようになって、、、何なんだろう?と思っていました。
でも実は、学会発表で賞を取ったりして凄いなって思われたりしても、それは全くのエビデンスにもならない。
どんな形でもいいから英文にしなきゃいけないんだ、という事にだんだん気づいていきました。

2003、2004年にJournal of Bone and Mineral Research (JBMR)とBoneとCalcified Tissue International (CTI)に論文を出すことができたんですけど、斎藤充の名前でJBMRとBoneとCTIの論文業績を持ってるって自分のプレゼンで引用するだけで、「こいつ、こんな論文書いてるんだ」と他人の見る目が全然変わっていきました。
ただ私は海外へ留学もしてなかったので、英文書くにあたっては工夫していました。
勉強して集めた論文を読んで、Introductionはどういう風に何行でどういうパターンで書いてるか、などを全部参考にしながら。
論文で使われる英語と日常会話の英語とは全然違うので、論文英語だけに特化し、論文からマネて書くような事をいつもしてました。
あとは、毎日論文を書くようにしていました。
日曜日にバーっと書いて一週間何もしないでまた日曜に書こうとすると、この表現どっかに載っていたなぁと思い出すのにゼロからスタートしなければならない。
どんなに臨床で疲れてても、夜中でも、ですね。
終わったら必ず一行か一段落は絶対書くっていうノルマを自分に課して、毎日論文を書くためのワーキングスペースを作って、そこで毎日しこしこ書くようにしていました。
── 素晴らしいです。
最初は論文を仕上げるのに時間がかかっていましたけど、私の論文はコラーゲン分析ですからMaterial & Methodsは毎回同じだし、IntroductionやDiscussionは総説かけるくらいの論文渉猟をしてますので、そんなに大変じゃないのかもしれません。
ですから、だんだん楽になりましたね、書くのは。
── 一貫性のある研究されてますし、むしろ自分でトレンドを作られている立場になっているのでしょうね
そうですね。
バラバラな分野の研究でトップジャーナルを出してもシンポジストにはなりにくいと思いますけど、私の場合はこの研究一本道でやっていましたので!
論文書くのも楽になりましたし、editorからも評価してもらったのか論文も通りやすくなったという感じです。
── いろいろ手をつけずに、むしろやらないことを決めて、研究分野を絞っていくのが大事なのかなと感じました。
私の場合、臨床やっていたため時間がないので、もう分析装置これ一本でやると決めました。
あとは手術で検体というデータが手に入りますので、そこを最大の強みにするのが効率がいいと思いました。
コラーゲン分析を継続し続け、これだけは誰にも負けたくないと思って続けてました。
臨床データで尿中ペントシジンが高いと骨折します、と私たちが発表した頃に開催された米国骨代謝学会のシンポジウムは思い出があります。
当時ブームになってきていた骨質のセッションの中で、骨のコラーゲンが大事だとAGEの話が出た時に引用されていた論文は、ほとんど私のものでした。

── 嬉しいですね
そのシンポジウムにでていたYale大学のKarl Insogna教授から突然メールが来て、Nature ClinicalPracticeからコメンタリーを求められたので,我々の研究を教えてくれと。
私たちはラットの研究で糖尿病で骨のコラーゲンは悪くなるって論文を出していたんですが で、骨質コラーゲンの異常であるAGEの増加が骨折リスクマーカーになると追認され世界から注目されるようになりました。
それから色々なところで追試が行われましたね。
UCLAのCummings先生のチームだとか、ヨーロッパのPatrick Garneroのチームとか。
── 世界で広がるトレンドを生み出したのですね!
最初に論文投稿した時はJBMRなんてけんもほろろで通らなくて、、、。
けれども、OIとかのヨーロッパ系の雑誌は拾ってくれました。
論文化されると、「実は私もおかしいと思ってました!」ってフォローしてくる人たちが出るので、インパクトファクターを追い求めるよりも、とにかくpubmedにいかに載せるかって事が大事なんだなと思ってます。
インパクトファクターの高いJBMRの論文よりも、その時に出したOIとかCTIに出した論文のほうがめちゃくちゃ引用されてます。多くは,既に国際ジャーナル400〜750論文に引用されているんです。
#03に続く
こちらの記事は2020年12月にQuotomyで掲載したものの転載です。