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九州大学医学部大学院 医学研究院 整形外科教室 山手智志先生

素晴らしい論文が認められた、学会主催アワードの受賞者たち。研究アイデアはどこから得られたのか。論文化のために、どのような工夫をしたのか。それぞれの先生に、受賞に至るまでのプロセスをインタビュー。語られる内容に、受賞のヒントが隠されているかもーー。
今回は日本人工関節学会で学会賞を受賞された九州大学医学部大学院医学研究院整形外科教室の山手智志先生に、論文の内容を分かりやすく解説していただきます!

登場する論文

Multiple Imputation to Salvage Partial Respondents: Analysis of the Forgotten Joint Score-12 After Total Hip Arthroplasty.
Yamate S, Hamai S, Kawahara S, Hara D, Motomura G, Ikemura S, Fujii M, Sato T, Harada S, Harada T, Kokubu Y, Nakashima Y.
J Bone Joint Surg Am. 2022 Dec 21;104(24):2195-2203. doi: 10.2106/JBJS.21.01547. Epub 2022 Oct 27.

── アワード受賞おめでとうございます。本研究のテーマはどのように決まっていったのでしょうか?

ありがとうございます。大学院に入学した2021年4月に、指導医の先生からテーマを5つぐらい与えられました。そのうちの1つに、今回のForgotten Joint Score-12(以下FJS-12)がありました。THA後に取得されたアンケートのデータセットを使って何かできないかと漠然とした研究課題でした。
今回の論文のテーマとなる内容なのですけれども、データセットの中身を見てみると欠測値だらけでした。実際の臨床研究のアンケート調査では良くあることだとは思います。
まず私がしたことは、一人ひとりの患者さんに電話をして、その穴埋め作業です。患者立脚型評価という患者主観での評価法では、医師が患者さんの回答を補助することは、そもそも間違ったやり方でした。
ただ良かったと思うのは、穴埋めをやっていくうちに、そもそも質問の評価法と患者さんが望んでいるニーズや生活様式の不一致があり、それが原因で欠損が起きているんじゃないかと気づけたことですね。
例えば、スポーツに関する問いがあったとして、患者さんはそのスポーツをしていないから答えられていない。

── なるほど。

そこに至るまでは結構早くて、入学した4月の3週目ぐらいには疑問に思いはじめました。じゃあどうすれば良いかという話になりますが、私は欠損値を含めた解析ができないかって考えました。諦めるか、欠損になるデータを除外して使えるデータだけで次の解析に進むケースも多いと思うんですけれども。
私の習慣ですが、何か分からないことがあると分野を問わず本屋に足を運ぶことから始めるようにしています。欠損データに関する本が4〜5冊ぐらい置いてあったので、それを全部買って熟読し、可能な限り引用元の文献も自分の目で確認し、多重代入法という手法が良いのではないかとなりました。今回の研究課題ですが、ここに至るまでは、1〜2か月ぐらいの感じです。

── 整形外科以外の専門領域の臨床研究で、欠損値をどう扱うかという研究は先行的にあったんですかね?

統計分野で発展していて。整形外科の分野ではまだあまり注目されていなかったようです。
臨床の超一流の総合誌では割と使われている手法ではあるようですが。

── FJS-12だと欠損値があるのを、他の患者立脚型アウトカムがある時にそこを埋められるよ、という内容の手法でしょうか?

ざっくりいうと、そうですね。欠損値がデータセット内にある他の患者立脚型アウトカムで説明ができる場合は、欠測値を埋めた上で利用できるというものです。

その代入は、今回の論文では、プロペンシティスコアマッチングと同じ原理を使う予測平均マッチングという手法を使いました。複数の代入を行った上で、解析結果を合わせるのが多重代入法です。

おそらく多重代入法の開発者は、最終的に得られる効果の推定に興味があったのだと思いますが、実務の現場では、その途中の穴埋めに興味がある人の方が多いようです。

受賞研究は、穴自体にも重要な意味があって、また埋めた一つ一つのデータも信頼性が高く、多重代入法で、欠測データを含めた上でバイアスの少ない評価ができることを示しました。

── これは統計家を入れてやったんですか?

初回の投稿時は、統計家がいなかったんです。
2021年12月に投稿しましたが、テーマ自体はジャーナルに刺さったみたいでした。ジャーナルが指定した専門家と相談の上、major revisionでやり直して、再投稿してほしいってなりました。その専門家と4回英語でディスカッションをした上で再投稿し、さらにrevisionが5回あったんです。最終的に翌年の10月にアクセプトされました。

── うわ〜、大変ですね。

その経過の中で、他の統計のレビューアーが2人参加してきて、4回目のrevisionで、九州大学の統計チームとも一度相談してくれと言われ、論文が出来上がる過程で複数人の統計家が入ってきています。
専門家のバックグラウンドの違いから、修正を行う上で関心の対象が微妙に違っていて、まとめる作業はとても大変でした。

最後にアクセプトメールが来たときは「良し!」という感情もあったのですけれども、これで終わったのかとホっとしたというか、レビュアーの統計の先生方とのやり取りが終わってしまったことに少し寂しい気持ちもあって、、、いろんな感情がありました。

── 濃厚すぎて、寂しさすら感じてしまうという……。
初回に投稿した内容より、論文がブラッシュアップされていったって感じですよね。

おっしゃるとおりで半分ぐらいは変わっています。
皆で作り上げたっていう感じがしますね。

── 論文を書く時に、単一アウトカムで評価していると、欠損値があった時に困りますね。

そうなんです。特に多くの患者立脚型評価は欧米で開発されていますので、例えば股関節でいうとOxford hip ScoreとかWOMACとかたくさんあるんですけれども、中には日本人には文化的な違いでニーズの不一致があって欠測値が多く発生する尺度もあるかと思います。
もし欠測値が発生してしまったのであれば、欠損のメカニズムを考慮した解析が必要で、多重代入法などが欠測値のガイドラインで推奨されています。

── 臨床家としては術後評価するのには1つではなく、何個かで取っておけよ、というメッセージになりますでしょうか。例えば、FJS-12だけでもなく、その他のOxfordとかだけでもなく。

そうですね。いっぱい取っておくと、今回のように補完するヒントになるかもしれないです。

── 上司の先生にこの論文を持っていった時はどんなリアクションでしたか?
それ面白いねってなるのか、そんな統計的なことは俺は分かんないよ、となっちゃうのか、どっちなんですか?

ここはcorresponding authorの濵井敏先生を最も尊敬している点です。
バイオメカニクスと動作解析を1番メインに研究されている先生なのですが、専門領域かどうかに関わらず、常に研究をフェアな視点で見てくださっていて。これはすごく面白いと共感していただいて、学会賞を取るところまで全力で二人三脚で進めることができました。

── 素晴らしいですね。アワード受賞は狙っていましたか?

私自身としては、当初はアワード受賞には本当はそんなに興味がなかったです。論文に書いてあるんですけれど、欠測データで困っている、例えば日本人の整形外科研究者たちにこの手法があると伝えることが目的でした。
その目的を達成するために、アワードで賞が取れてこれが広まったらいいなと思って応募することにしました。

── 今回アワードを受賞して1番嬉しかったことはなんですか?

今回全てR言語で統計解析のプログラミングをやったのですけれど、実は大学4年生ぐらいの時からR言語に触れていたのです。
私は北海道大学出身なのですが、大学4年生の時に遊びに行っていた研究室で相手をしてくださった消化器外科Ⅰの当時大学院生の先生から、将来的に研究を世界レベルで成し遂げたいのであれば絶対にR言語はやった方が良いとアドバイスされ、そこから興味を持ち、何かある度に独学で色々な解析をやってみていました。
今回たまたま、そういったデータが揃う分野に配属されて結果が出たのですけれども、振り返ってみると10年ぐらい地道にやっていたことが実ったのかなって、そういう意味では嬉しいですし、そこにたどり着くまでのきっかけを与えてくれた先生方に感謝しています。

── 素晴らしい、connecting dotsですね。
昔からやっていたR言語が素地としてあったのが効いている。
先生がアワードを受賞して喜んでくれた方はいますか?

濵井敏先生はもちろん喜んでくださいましたし、推薦してくださった中島教授もすごく喜んでくださいました。
そして意外にももう一人は、北海道室蘭市の日鋼記念病院で研修していた時の上司の先生です。
その先生がきっかけで私は整形外科になったのですが、論文とは全く無縁のような超体育会系で、仕事と飲み会っていう先生でした。
私が賞を取ったっていうのが北海道にも伝わったみたいで、たまたま久しぶりにお会いした時に、その先生がすごく大喜びしていたのがすごく嬉しかったです。

思いがけない人にも伝わると分かり、アワード受賞にチャレンジして良かったと思っています。

── 素敵なエピソードですね。インタビューさせていただき、ありがとうございました。