
【#03 赤木將男先生】臨床上の疑問を大切にして、常に考え続けよ
本編に登場する論文
Wear and toughness of crosslinked polyethylene for total knee replacements: a study using a simulator and small-punch testing
Masao Akagi, Taiyo Asano, Ian C Clarke, Norio Niiyama, Masayuki Kyomoto, Takashi Nakamura, Chiaki Hamanishi
J Orthop Res. 2006 Oct;24(10):2021-7. doi: 10.1002/jor.20223.
── 「Akagi's line」と呼び、これを広めたという、Aglietti先生はお知り合いだったのですか?
私はAgliettiの顔も見たことないし話をしたこともないのですが、名前は論文で知っていました。
実は、近畿大学に着任後間もなく、彼から葉書が来たのです。
JBJSに掲載された私の論文(The Bi-surface Total Knee Replacement.)が出版されたばかりの頃で、リプリントを送ってくれ、という内容でした。
当時は今のようにpdfをダウンロードできる時代ではないので、別刷りの請求をしていました。リプリントの請求が来たら「自分の研究に興味を持ってくれている」と思って、喜んで送っていたのです。
そんなことがあって、Agliettiの名前は知っていたわけです。
そのAgliettiが、2004年のAP軸の論文を読んで、2007年のAmerican Academy of Orthopaedic SurgeonsのKnee Society Specialty Dayで「Akagi's line」と名付けて講演をしたのです。
Knee Society Specialty Dayでの発表内容は翌年のClin Orthop Relat Resに論文として掲載されます。
自分はAAOSでAgliettiがそんな発表して論文になっているなど全く知りませんでした。ある医局員が「先生の名前が論文に載っていますよ」と言って、Clin Orthop Relat Resに掲載されたその論文を持ってきてくれて初めて知りました。
「海外でも自分の論文を評価してくれる人いるんだな」って思っているうちに、海外でAkagi's lineが結構有名になりました。
それが日本に逆輸入され、日本の学会でも認知されることになりましたね。
── 逆輸入で日本での認知が広がったのですか。
この研究については、2002年の日本膝関節学会(当時)で発表し、日本語の論文にもしました。けれども、ほとんど反応がなく、特に注目されることもなかったです。英語の論文にして、Agliettiが読んでAkagi's lineと呼んでくれてから暫くして、日本でも急にあちこちで聞かれるようになりました。

── やっぱり英語にする大切さを感じます。
本当にその通りだと思います。
どんなに良い論文で、どんなにオリジナリティがあっても、やっぱり英語にしないといけない。
価値を認めてくれる人は世界の中から出てくるので、本当に意味があると思うのであれば、やっぱり英語にしないとだめですよね。
私は英語が不得意な人間ですけれど、原著論文は全て英語で書いています。
── 素晴らしいです。
次の論文はクロスリンクのポリエチレンの話です。
近畿大学で京セラと共同研究されたのでしょうか?
実はこれはロマリンダ留学中の研究なのです。
京セラはロマリンダに研究資金を提供して、その研究資金の中から私たち留学生の給料が出るという形になっていました。
ロマリンダの摩耗学研究所は、ポリエチレン摩耗やインプラント素材についての京セラとの共同研究をやっていたのですね。
自分は京都大学から3人目の留学生で、自分の後任は浅野太洋先生でした。
── 前回登場された浅野先生ですね。(第2話参照)
この論文はずいぶん公表が遅れましたが、自分の留学中にはまともなデータが出なかったんです。
留学中はひたすら勉強して、「こういうやり方をやったらキチンとしたデータが出るはずだ。こういう実験をさせて欲しい」と京セラのエンジニアや研究所の技師と話をして、、、次にやってくる淺野先生に実験を進めてもらうことになりました。
私も近畿大学で実験を継続しました。
そして、後任の浅野先生と実験データを共有して、同じデータを元にしてそれぞれ異なる内容の論文執筆をしたのです。
人工膝関節のクロスリンクポリエチレンに関して、本格的なシミュレータ研究の結果を出したのはこれが世界初だと思います。
── 1年の留学期間だけでは難しい壮大な研究ですね。
Third authorに書いてあるClarke先生はロマリンダの方ですか?
そうです、ロマリンダの摩耗学研究所の所長ですね。
実はClarkeさんは京セラの社員だったこともあったのです。
それが、ロマリンダ大学に就職してそこで研究所の所長となって、京セラと共同研究を始めることなり、そこに私たちも留学する事ができたというわけです。
── 全ての研究が繋がっていて興味深いですね。
その後、近畿大学主任教授になられて、教室全体を運営していくことになります。
気をつけてらっしゃることはありますか?
医局員が自分でやりたいことで業績を出していけるような、できるかぎり自主性を尊重するように心がけています。
それが良いのか悪いのか分からないこともあると思いますが、その場合にはアドバイスを入れる。ただし「ああやれ、こうやれ」という事を強制しないようにしています。
── お話を伺っていると、京都大学の雰囲気ですね。
京都大学はすべてそういう考え方でした。大人扱いです。
それが本当に近畿大学にマッチしているか少し疑問もあり、もう少し尻を叩かないといけないのかもしれませんね。
10年間教授をやってみて、その点は少し反省しています。

── 最近の近畿大学整形外科の競争的研究資金獲得のテーマを見ていると、レニオ・アンジオテンシン系とか高脂血症とか動脈硬化など、整形外科を超越したような研究テーマになっておられると思うのですけど、これは何かきっかけはあるのでしょうか?
生活習慣病と変形性関節症には共通の分子機構があるのではないかと考えています。
京都大学にいた頃に大学院生と一緒に研究をしており、動脈硬化の原因物質である酸化LDLの受容体が軟骨細胞に発現するという事が分かって、「面白い」と思っていました。
帰国して近畿大学に来ると浜西千秋教授の方から院生を指導してくれと言われました。
院生の指導というのは基礎的研究だったので、大学院にも行っていないのに大丈夫かと思いながら、最初の大学院生を指導したのです。
相手の院生も相当に不安であったと思います。20年以上も前の話ですが、生化学教室の協力も頂きました。
それが上手くいって、その後も次々と大学院生を担当するようになって、、、今でも生活習慣病と関節症というテーマで研究を続けています。
── 先生の業績は京都大学時代にルーツがあると思うのですが、倉敷中央病院から留学するまで約5年間ほどですよね。
その頃の密度がとても濃いですね。
まあ、わりに何にでも興味が湧く方なのでしょうね。
あれも面白い、これも面白い、と。
でも基本的には膝のことをやっています、
特に変形性膝関節症の病因・病態から手術までを一貫してやって来たことになります。
── これまでの先生のストーリーは人工膝関節に関する研究の歴史とほぼ一致していると思います。今後グローバルな研究や歴史に残るような成果を出すために、若手から中堅の整形外科医に何かメッセージはありますでしょうか?
自分の業績を見てみると、とても運が良いな、と思います。
研究にも「時代の流れ」って、どうしてもあります。
大腿骨側にWhiteside lineが出てきて、大腿骨コンポーネントの回旋位を考える時代でした。トラッキングを改善するためには大腿骨上顆軸に並行に大腿骨コンポーネントを設置すると良いとか、そうすれば膝蓋骨がまっすぐ降りてくる、、、とかですね。
当時そういう流れがあって、膝蓋骨トラッキングの研究しているうちに、膝のキネマティクスについて浅野先生と一緒に研究するようになり、大腿骨上顆軸を強く意識するようになった。
脛骨の前後軸を決めるためには大腿骨上顆軸を脛骨側に投影して検討すればいいんじゃないか、というアイデアが自分の心の中に浮かんできたわけです。
膝キネマティクスの研究成果から脛骨AP軸の決定方法についてのアイデアが生まれましたが、脛骨側にもAP軸が必要だという思いは、臨床的な疑問から出て来たものです。
つまり、倉敷時代から、実際の手術でどのように脛骨コンポーネントの前後方向を決めたら良いのかが分からない、と考えていました。教科書を読んでも曖昧です。
また、脛骨コンポーネントの向きを間違えると、とんでもないことになると言うことも実臨床で経験していました。
さらに、コンピューターが得意で人工股関節の3次元術前計画をされていた飯田先生が京都大学に帰ってこられた。
私も一緒に仕事をさせてもらって人工股関節の3次元計画を手術前にやっていました。しかし、人工膝関節でこれをしようと思っても、脛骨側の回旋位を決める基準が無かった。
大腿骨側にはWhiteside lineや大腿骨上顆軸という基準線があったのですが、脛骨側には前後方向や内外側を決める基準線が無かったのです。
線や方向は2点で決まりますが、その2点を決めなければ脛骨の計画はできません。
そのような意味で、飯田先生の人工股関節3次元計画は脛骨AP軸考案の強い動機になっています。
── そういう流れだったのですね。
脛骨AP軸については、色々なことが運良く上手く結びついて成果が出ました。つまり出会う人に恵まれたと思っています。
私がやった事は苦労でも何でもなく、ただ近畿大学の医局員や看護師さんにお願いして正常膝のCTをとらせてもらっただけなのです。
多少の試行錯誤はしましたけれども、かなり早く答えは出て来ました。
ですから、こういう風にしたら何か歴史に残るような業績が出るよ、という事は言えないですね。運が良かっただけですから。
けれども、後輩に対してですね、何か1つ言える事があるとすれば、「常に疑問を持ち、考え続けること」だと思います。
普段から臨床をちゃんとやっていて、熱心にその結果を見ていると、問題意識が出てきます。
なんで上手く行かない場合があるのか、どうすれば安定した結果が得られるのか?
そうすると、勉強が嫌いでも論文を読むようになるし、他の人から意見も聞くようにもなる。

私は頭の回転が非常に悪い人間ですが、持続力はある方で、考え続けられる方だと思います。
夜寝る前に考えていることがあって、朝になったら分かっていることがあります。
別に研究だけじゃなくて手術方法についてもそうです
この患者さんの手術をどうしようかなと思ってずっと考えていると、朝になったら「これでいこう」と決まっていることもあります。
日常臨床の中から「自分が解決したい」、「やらないといけない」と思える疑問を見つけて、ずっと継続的に考え続ける。
そうしていると、色々な人の話の中や一見関係のない論文の中に解決のヒントがあることに気づくことがあります。常時考えていなければ、この気づきはないものだと思います。
そして、自分のテーマが上手く時代の流れや背景に合い、良い仲間に恵まれると、良い仕事ができるかもしれませんね。
── 赤木先生、ありがとうございました。
こちらの記事は2022年5月にQuotomyで掲載したものの転載です。