
【内田宗志先生 #03】寛骨臼形成不全に対する股関節鏡手術を世界へ発信
本編に登場する論文
Endoscopic shelf acetabuloplasty can improve clinical outcomes and achieve return to sports-related activity in active patients with hip dysplasia
Soshi Uchida, Akihisa Hatakeyama, Shiho Kanezaki, Hajime Utsunomiya, Hitoshi Suzuki, Toshiharu Mori, Angela Chang, Dean K Matsuda, Akinori Sakai
Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2018 Oct;26(10):3165-3177. doi: 10.1007/s00167-017-4787-0. Epub 2017 Nov 28.
── 先生が多くの学会やキャダバートレーニングに講師として招待されるようになったのはいつ頃からなのでしょうか?
2012年にInternational Society Hip Arthroscopy(ISHA)の招待講演をさせていただいてからでしょうか。
寛骨臼形成不全に対する股関節鏡についてのレクチャーをしました。
股関節唇を修復し浅い臼蓋にオプションとして骨を移植する臼蓋形成術についてもtechnical noteとして発表しました。
── 今回の論文の内容である、鏡視下臼蓋形成術のお話ですね。
寛骨臼形成不全の患者さんに股関節鏡手術をしてきて、成績不良の患者さんの特徴はCE角18°未満、前方のVCA角15°未満ということがわかってきました。
こういう患者さんには、やはり骨切り手術をしなくちゃならないのです。
骨切り手術というと寛骨臼回転骨切り術が一般的ですが、その前には臼蓋形成術が主流でした。実は私は臼蓋形成術を関西医科大学の飯田寛和先生に習いにいってたのですね。
飯田先生に「この手術、股関節鏡で見ながらできますか?」って伺ったところ、笑って「先生だったらできるかもなぁ」っておっしゃったんですよね。
そうしたら、若松病院で臼蓋形成術をする度に、飯田先生の一番弟子の和田孝彦先生をお呼びできることにしてくださったんです。
1年間ほど和田先生には毎回若松に来てもらって、本当にありがたかったです。
鏡視下臼蓋形成術の術式を確立して、股関節鏡手術の幅が広がりました。
── この手術は内田先生しかできないtechnical demandingな手術なのでしょうか?
最初の頃はtechnical demandingだったと思います。
今は新しい器械を開発したので、それを使えば多くの先生にやっていただける手術になっていければと思います。
肩関節脱臼に対する鏡視下Bristowもそうですよね。
鏡視下Bristowもtechnical demandingな手術ですが、機械を開発されて手術をできる先生が増えているので、助かる患者さんが増えている。
── この術式は自分たちだけができる特別な手術、というより多くのスポーツ整形外科医や股関節外科医に広めたいということですか?
そうですね。
私のもとに患者さんが来てくれるのはありがたいですが、私が手術できる数は限られてますし、ずっと手術ができるわけではないこともわかっています。
それよりも後継が育つように教えていきたいですね。
そこは医局とか人種とかの垣根は関係なく、多くの先生に伝えていきたいと思います。
── 若松病院では多くのフェローの先生を受け入れていると伺っています。
フェローに来てくれる先生が多くて、助かっています。
若い医師にとっても一緒に過ごして仲良くなれる、横のつながりができる、ということは財産になります。
若松病院が多くの若い先生が活躍できる場として教育の場になれば良いな、と思っています。
ISAKOS(国際膝関節鏡スポーツ整形外科学会)のteaching centerに認証されているため、世界各国からドクターがフェローとして来てくれています。
欧米と比べてアジアでは、まだ股関節鏡が普及していません。
中国で股関節鏡を始めている先生もいますが、ほとんどのドクターが、私がキャダバートレーニングでインストラクターをした先生たちです。
アジアと九州は地域的に近いですし、シンガポールのようにキャダバートレーニングの場もあります。
よりアジアとの交流を大切にして多くの患者さんを救えるようになれば良いと思っています。

── キャダバートレーニングで講師を務めるなど、ご活躍されています。
海外の医師へどうやって教えているのでしょうか?
実際のキャダバートレーニングコースで周りの講師がどうやって教えているか?を見聞きして盗んでいますね。
最近は講師も受講生から評価されるんですよ、だから必死です。
私は若い頃から海外のトレーニングコースに参加していたんですよ。
当時から将来は海外へ発信できるようになりたいという憧れがありました。
そういう思いを諦めずにやり遂げるというのが大事で、今の自分の礎になっていると思います。
── 海外の医師との人脈作りの秘訣はありますか?
飲み会とかですかね、笑
そこで仲良くなったら、学会ついでに病院や手術の見学に行くようにしています。
そうすると、そのあとは食事に行くことになるので、隣に座って話していると人格もわかりますし。
そういうのを繰り返しやっていると人脈も広がります。
── 若松病院の皆様は臨床をやって、論文も書いて、そして世界でも活躍していると思います。
グループとしてアクティブでいる秘訣はなんでしょうか?
良くやってくれた時には若手を褒めることも大事だと思っていますが、一番は「楽しく仕事をしてもらう」だと思います。
臨床をしていると困難は付き物なのですが、困難・苦難を楽しむ能力を育てるのが大事ですね。
困難は人として成長できるチャンスだから逃げるな、進んでやれ、と皆には言っています。
人として成長できると患者さんに対して医療人として貢献できるようになるのです。
── 先生のブログを拝読していると「顔晴れ」って良く出てきます。
「頑張れ」だと歯を食いしばる苦しいイメージがあります。
「顔晴れ」だとニコニコしながら楽しくがんばるイメージですね。
そういう気の持ち方が大事だと思っています。
── 臨床家として憧れます。ありがとうございました。
こちらの記事は2021年3月にQuotomyで掲載したものの転載です。