手術室でも医局でもない、
外科系医師に開かれたオンラインでの研鑽場所

【#03 島田洋一先生】先進的技術でリハビリテーション革命

本編に登場する論文

Clinical application of peroneal nerve stimulator system using percutaneous intramuscular electrodes for correction of foot drop in hemiplegic patients
Yoichi Shimada, Toshiki Matsunaga, Akiko Misawa, Shigeru Ando, Eiji Itoi, Natsuo Konishi
Neuromodulation. 2006 Oct;9(4):320-7. doi: 10.1111/j.1525-1403.2006.00074.x.

── 今回ご紹介いただく論文は、先生の別の専門性であるリハビリテーションに関する論文です。
留学時代に脊椎とリハビリテーションという2つの専門性を持って行った、と伺いました。帰国後は二足のわらじをやっていらっしゃったのでしょうか?

手術はいっぱいやって脊椎外科医としてフルに働いて、そしてリハビリテーションの研究もして、、、まあ全部やってました。
リハビリテーション医学をやってきた私の資質として、もともと工学が大好きなのですよ。
工学部に授業をもっていたこともあるくらいです。
色んなモデルを使ってシミュレーションしたり、AIやディープラーニングをやったり。
ディープラーニングは20年も前に取り入れて研究していました。
医学から先端テクノロジーまで興味があるのです。

── 機能的電気刺激(Functional Electrical Stimulation:FES)が御専門だと伺っていましたが、AIなども取り入れておられてのですね。
相当前から注目されていて凄いです。

経済産業省のやっている新エネルギー・産業技術総合開発機構(New Energy and Industrial Technology Development Organization:NEDO)に呼ばれて行ったこともあります。
アメリカではFESの研究を一生懸命やっている研究者がBrain Machine Interface(以下BMI)の研究をしていします。
これがAIを含めた今のテクノロジーの基本になってる一面があるんですよ。
たまたま若い時からにその領域に自分がいたものですから、そういうテクノロジーに入りやすかったのだと思います。

── FESの原理について教えてください。

一次運動ニューロンである脳や脊髄に損傷が起きても、末梢神経という二次運動ニューロンは生きているわけですよ。
脳と脊髄の代わりになるコンピューター装置を用いて、電極を通じて二次運動ニューロンを刺激をし動かすのがFESです。
コンピューターで制御して、歩かせたり、字を書かせたり、食べさせたり、、、そういうことができるわけです。
最初は脊髄損傷後の歩行再建をしようということで、日本で最初に患者を歩かせることに成功しました。
それ以降、さまざまな再建に取り組んできました。
われわれの技術「経皮的埋め込み電極を用いた機能的電気刺激療法」は、リハビリテーション分野として我が国初の高度先進医療となったのです。

今はアメリカのチームとも一緒にやっていて、FDAを通して世界へ商品として売っています。
日本でも薬事承認は早めに通っていたのですが、やっと令和2年に保険収載になりまして、今だいぶ普及してきています。
現在、新しい機器でFDAに通ったものがありますが、これは難治性疼痛に対する治療です。
完全埋め込み式で全く新しい電気刺激装置ができました。
薬も効かないし,リハビリテーションも手術もダメという難治性疼痛の世界では光明だと思います。

── まさに世界でご活躍ですね。アジア代表もお務めになられたと伺いました。

国際FES学会のboard directorになり、そこのアジア代表になって仕事をしてまいりました。

── 論文の内容は、片麻痺になってしまった患者さんに対してFESを臨床的に使用した研究結果でしょうか。

そうです。
片麻痺性下垂足による歩行障害に対して、内反尖足を制御する Akita heel sensor systemを開発し、臨床応用したという報告です。
装置そのものは私が工学者と一緒に作りました。

── 凄い。このフィギュアに載ってるものがそうですか?

はい、ちなみに埋め込み手術も私がやりました。
この論文は当時のリハビリテーション医学の革命だったと思います。
現在と違って、当時のリハビリテーション科というのは手術ができない整形外科医や脳神経外科医がいく、あがりの商売でした。
今のリハビリテーション医学は、最先端のテクノロジーを使った凄くレベルの高い所にあります。
私はリハビリテーション学会の先端医療機器委員会の担当理事をしているので、そこにいると世界の情報が集まってきます。
いま何が最先端で、人間はどこに向かっているのか、、、そういう情報です。
私は外科医として手術をやってきたので、手術の限界も分かるし、どのような症例に手術をした方が良いことも分かる。
ただ、未来にある先進技術が何か?ということも頭に入れておかないと、整形外科医はただの整形外科医になってしまう。
やっぱり夢を見る。
「こんなことできるのか?そこまで行きたい!」というレベルの高いところへ到達する強い願望ですね
それが重要なのだと思いますよ。

東京工業大学とも提携して世界一流の工学者と一緒に物づくりをしていて、いま注目しているのは細径人工筋肉ですね。
FESのようなシステムやロボットでも解決できないような障害は、将来的には体内に細径人工筋肉を埋め込むことで解決に向かうと思います。
整形外科手術の最終的な到達点は、細径人工筋肉だと思っている。
私の時代では難しいかもしれないけど、50年もすれば体内に細径人工筋肉を埋め込みアクチベーターとして使用することができる。
そうすれば末梢神経に問題がある人も制御できる究極のロボット技術になる可能姓があります。

── ロボット技術ですか?

人工筋肉も体内ロボットですよ。
人間というのは身体の外につけられたロボットは使いたがらない。
手術で体内に埋め込み、AIが人の動きを制御する。
それが本当の意味での再建ではないかと。

── なるほど。
そうすると整形外科医の仕事としては、移植外科のような役割になってくるかもしれません。

本当にそうです。
足りない部分を移植で補う、そういう時代が必ず来ます。
リハビリテーション医学をやっているとわかるのですが、ヒトの動きを別の物で代替しようとするのは無理があるのです。
本来もっているヒトの動きをそのまま再現する必要があるのです。
そのためには力を発揮する筋肉が必要。
筋肉ができないならば、代用の筋肉にさせる。
それが人間の到達点かな、と。
ロボットと比べてFESの何が良い点かというと、モーターではなく,発揮する筋力は自分の身体のものを使うのです。
制御するのはコンピューターでも動きには筋肉が必要。
そういう意味でFESと人工筋肉の組み合わせが最強だと思います。

── イノベーティブなリハビリテーションにワクワクしますね。

── BMIという話も少しお願いします。

BMIでは、脳で考えたことで手足が動くようになります。
これから三十年後の世界でBMIを制するものが全てを制すると考えられていて、テスラのイーロンマスクも取り組んでいます。
脳そのものの活動だけで物事が動くので、人間はより自由となるでしょう。
これこそ究極のリハビリテーション医学ですね。
リハビリテーション医学の世界ではこのように進化していますので、整形外科もこういう発想が必要です。
これからの整形外科の再建方法というのは、人工筋肉、BMI、AR/VR/MRなど、色んなものを組み合わせてやってくということになります。
整形外科の役割がより大きくなるだろうと思います。

── 先生は凄く高いレベルで2つの専門性を全うされ、素晴らしいです。
時間の作り方や切り替え方法について教えてください。

自分であんまり思わないんだけど他人によく言われるのは、力の抜き方が上手だそうです。
例えば、凄い大変な手術をやって予定より早く終わったら、後輩を連れて遊びにいったりした。
そういう風にコロッと切り替えることができるのですよ。
どんなに長時間手術をしても、リハビリテーション医学のことをやるのは苦にならない。
逆に、色んなことをやるので苦しまないのかもしれないですね。

── なるほど。
ひとつだけの専門性だと、それが上手くいかなくなった時に苦しむってことでしょうか?

先輩に「お前は良い性格してるな.手術の結果をそんなに気にしていない。」と言われたことがあります。
気にしていないわけではないのだけど、悩んでるくらいだったら、他に何か役に立つ仕事した方が良いかなと思います。
そのためにリハビリテーション医学というのは一番良い別の専門性だったと思います。
新しいことを考え実際にモノを作るっていう、究極の願望だと思いますよ。

── なるほど。
ひとつだけの専門性だと、それが上手くいかなくなった時に苦しむってことでしょうか?

先輩に「お前は良い性格してるな.手術の結果をそんなに気にしていない。」と言われたことがあります。
気にしていないわけではないのだけど、悩んでるくらいだったら、他に何か役に立つ仕事した方が良いかなと思います。
そのためにリハビリテーション医学というのは一番良い別の専門性だったと思います。
新しいことを考え実際にモノを作るっていう、究極の願望だと思いますよ。

── 後進の先生たちにメッセージをお願いします

思ったようにやればいいんじゃないでしょうか?
誰からも制約を受けずに、やりたいようにやれば良いと思います。

── 医工連携を含めて、モノ作りをする時に気をつけることはありますか?

究極のサービス精神ですね。
医工連携の基本はGive and Giveです。
医者が相手にどのくらい差し上げることができるか。
他人とちゃんと付き合おうとする時に、究極のサービス精神がないと何も生まれないかなと思います。

── 深いです!島田先生、ありございました。

こちらの記事は2021年8月にQuotomyで掲載したものの転載です。